スタースクリームが、朝目覚めて最初に行う事は自身の洗浄である。
バブルバスルーム
破壊大帝の広いベッドからもそもそと抜け出し、鈍痛を訴える腰を宥めながら、勝手知った様子でバスルームの扉を開ける。
自室にも簡易洗浄室こそ備わっているものの、生憎ここまで広くは無い。
そもそも自室のものより、大帝に合わせて作られた筈のこのバスルームの方が遙かに使用頻度が高いのだ。
少し高い位置にあるボタンを押せば、たちまち適温の湯がスタースクリームに降り注ぐ。
下肢にまとわりつく汚れを大まかに濯ぎ落とし、ついで横の洗浄液噴射ボタンを押そうとしーーーー
「ありゃ」
ENPTY、即ち空を示すランプが点滅している。
全てを合理的に賄うセイバートロン製シップであっても、燃料を補給しなければ動けなくなる様に、こうしたアメニティーにもいつか底が尽きる日が来る。
まったくもって道理であるが、スタースクリームの機嫌を損ねるには充分でもあった。
「ンだよ、最後につかったひとが補充すべきなんじゃないんですかねぇメガトロンさんよぉー」
ぼやいた所で、タンクの中身が補充されるわけではない。
ぶちぶちと文句を言いながら、スタースクリームはコードを操作して自室の洗浄剤タンクをこちらに直結させた。
暫くこちらに入り浸っていたお陰で、自室の洗浄剤は全く減っていない。
破壊大帝御用達の洗浄剤は香りも手触りも悪くないし、これぐらいケチる事もないだろうと我が物顔で使っていたのは事実だーーーーが。
いざこうして別のものを使ってみると、以前はあれだけ嗅ぎ慣れ気に入っていた自らの洗浄剤でも、何やら違和感を抱いてしまう。
「・・・」
さっさと済ませてしまおう、そう思い泡立て始めたスタースクリームであったのだが。
「何をしている」
いつの間にそこに来ていたのか、濡れるのも厭わず白銀の機体が扉の向こうに立っていた。
もうもうと立ちこめる湯気が不快なのかーーーさりとて破壊大帝の不機嫌さなどスタースクリームには全く関係なく。
「見ての通り、何処かの破壊大帝が昨晩好き勝手してくれた分の後始末ですよボス」
たっぷり嫌味を込めて言ってやるが、メガトロンは気を悪くした様子もなくその場に立ったままだ。
いつもならばスタースクリームを押し退け自分の機体を洗浄しに掛かるだろうに、今日は少し様子が違う。
だが破壊大帝の変化に、スタースクリームは気を使わなかった。
泡を足に塗り付けながら、厚かましく文句を垂れる。
「用が無いなら閉めろっての。サービス料請求すっぞ」
ここまで言えばカノン砲の一発ぐらいありそうなものだが、やはりメガトロンは何も言わない。
代わりにひどく不機嫌そうに、スタースクリームを睨むだけだ。
一体何なのか、無視されっぱなしである事にも戸惑い始めつつ、スタースクリームが泡を足から腰、胸へと擦りつけ始めたーーーーその時であった。
黙りこくっていた大帝が、スタースクリームの腕を掴んだのだ。
突然の行動に面を上げるスタースクリームであったが、既に大帝の顔はバスルームに入り口には無く。
ごく一瞬の間に、メガトロンはスタースクリームを後ろから抱き込む形で入り込んでいた。
「っテメエ何すんだ!!」
「いつもの洗浄剤はどうした」
「はぁ!?」
訳が分からずもがく体を、メガトロンは有無を言わせず床に押さえつける。
ぬるりと体表を滑る黒い掌は、昨晩の情事を思い起こさせるのに充分だった。
どうにかメガトロンの腕から逃れようともがくスタースクリームだが、大帝はそれを許そうとしない。
代わりにスタースクリームの体をぐるりと反転させうつ伏せにさせると、まだ泡立てられていない背中に丹念に塗り付け始めたのだ。
「っちょお、何やってんだよ!!?」
「洗ってやる」
「いらねっての!!!!」
ぎゃあぎゃあと喚く声が浴室内に反響し、その喧しさにメガトロンが険のある顔つきになる。
だが角張った手が背中を滑り始めれば、スタースクリームの罵声はすぐに艶がかったものへと塗り変えられていった。
「っひ・・・・この、何・・・・ッ」
常ならばきぃ、と乾いた音を立てる筈の接触は、洗浄剤という緩衝物がある為にひどく心地よい。
ただでさえ飛行型の自分にとって、背中は目が届かない分他のセンサーが鋭敏だ。
目を閉じずとも、今破壊大帝がどの指で、どう弄んでいるのかが嫌でも判ってしまう。
翼を伝う水滴さえ、刺激的すぎる。
床に爪を立ててやり過ごそうとするが、洗い落とされた洗浄液は床をもぬめらせ踏ん張る事ができない。
感度の高い背中と翼を堪能し終え、メガトロンの指はごく自然とその後ろへと回った。
「ひ、ァ、―――-」
胸部のエアーダクトに指が這わされると、最早声を上げる事もできなかった。
「次は我のものを使え。必ずだ」
そう言い捨てて、破壊大帝は去って行った。
後に残されたのは、見た目ばかりは美しく磨き上げられたジェット機のみ。
その下肢には先刻洗い流した筈の白い汚れが滴り落ちていたか、それを指摘する者は生憎誰もいなかった。
「・・・・・何なんだよォ」
主の暴挙に、散々鳴かされた喉が痛みを訴えけふりと咳をこぼした。
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「我と同じ香りじゃないとかまじ激おこ」な大帝。
わがままA大帝に振り回されるスタスクが拙宅の基本スタンスみたいです。
2013.08.17