だって腹が立つ。

 

 

 

ベッドの中で、スタースクリームは不満げに相手の顔を眺めていた。

普通事後の空気といえば、多少なりとも甘酸っぱい余韻が残るものだろうが、生憎それはスタースクリームに限って適用されない。

特に相手が、メガトロンであった場合は。

「・・・・」

いつも謀反を企てる部下を褥に引っ張り込む神経は、破壊大帝という器故だろうか。

しかしそんな悠然とした態度も、スタースクリームを苛立たせる要因だった。

そして今、スタースクリームがひどく不満な顔で眺めているのと対照的に――――向こうもまた、こちらも見ている事。それも意地悪く笑んでいる事が、だ。

益々への字に口角を下げれば、相手は逆に吊り上がって行く。

一体何が面白いのだろうか。知りたくも無い。

どうせこちらの機嫌が悪い事が面白いのだ、などと言うに決まっていた。

まるで恋人を気遣うかの様に、こちらの腰を撫でる手付きも憎らしい事この上無かった。

破壊大帝の掌は、スタースクリームの装甲など容易くひしゃげられる握力を持っている癖に。

そう思いながら、いつだったかネメシスで翼を凹まされた事を思い出した。

機械生命体の中でも飛び抜けて美しい―――とスタースクリームは思っている―――ジェットロンのボディに傷をつけるなど、狂気の沙汰だ。それがスタースクリームのボディなら、尚更だ。

「いつまで触ってんですか」

「労わってやっているだけだが?」

しれっと言い放つメガトロンに、スタースクリームの口角が更に下がった。

「部下を可愛がる事ぐらい、珍しい事ではないだろう」

「それがアンタならぞっとするね」

「・・・貴様は本当に、可愛げが無いな」

はぁ、と零れた嘆息。呆れたいのはこっちだと言うのに。

それでも腰を撫でる手は、止まらない。

「可愛くないのはアンタも同じでしょーが」

労わるんだったら、バスルームに連れて行って欲しいモンだ。

そう呟けば、再びあの嘆息が聞こえた。

「素直に、立てないと言えばいいものを」

「誰のせいですか」

「本当に、可愛くない奴だな」

腰を撫でていた掌は、容易くスタースクリームの体を掬い上げた。

 

 

* *

 

 

 

いつもはシャワーで済むが、今日ばかりはバスタブに湯を張る事にした。

ボタン一つで用意が整うとはいえ、そんな事をメガトロンにさせるのは宇宙の何処を探してもスタースクリームぐらいのものだろう。

生憎スタースクリームがそれに気付く事は無いが、調子に乗られても面倒なのでメガトロンはそれを口にしないでいた。

可愛げのない部下は、メガトロンの膝に座る形で大人しく湯船に浸かっている。

先程までの可愛げのない口は、何かくだらない事を考えているのか今は閉ざされたままだ。

そうやって大人しくこちらの胸に頭を預けている時は、可愛げがあると思うのだが。

しおらしさが長続きしないのも、この部下が可愛くない理由の一つだ。

特徴的な鉤爪がメガトロンの胸板を辿り、時折カツリと爪を立てる。

その程度では傷などつく筈もないので、暫くメガトロンは放っておく事にした。

相変わらず不満そうなスタースクリームの顔からして、何か試しているであろう事は明白なのだが。

不思議とスタースクリームは、この洗浄室と――――褥の中だけは、馬鹿な真似に走らないのだ。

故にメガトロンは手遊びなのか悪戯なのか、この良く判らない行動を観察する事にした。

 

きぃ、と音は立つ。

しかし跡は残らない。

己の爪と破壊大帝の装甲を見比べ、スタースクリームは益々不満げな顔になった。

 

やがて飽いたのか、可愛げのないジェットロンは不意にメガトロンの膝に乗り上げた。

先程までは立てないだの何だの言っていたくせに、もう機体不良は自己再生したらしい。

細い腿を軽く支えて様子を見守ってやると、鉤爪は今度はメガトロンの首へ登り、続いて肩に辿りついた。

また、きぃと音がする。

しかし眼前に迫ったスタースクリームの顔は、不満気なままだ。

その表情越しに見る翼には、所々昨晩の名残りが残っている――――どれだけ加減しても、握力故にスタースクリームの体には情痕がつくのだ。

それを眺めていて漸く、メガトロンはこの部下が何を不満気に思っているのか判った気がした。

空いている方の手でゆるゆると脇腹の辺りをなぞってやれば、ぴくりとスタースクリームの体が跳ねる。

 

「痕(キスマーク)が欲しいか?」

 

くつくつと笑みを洩らせば、図星らしくスタースクリームの顔が心底嫌そうな表情になった。

「・・・・一体何の素材使ってんだよ」

「教えると思うか?」

どうせ自分も同じ素材を用いたボディに換装するつもりだろう。だが生憎メガトロンにそれを教える親切心は無かった。

スタースクリームに残った己の痕を眺めるのは、ひどく気分が良いからだ。

向こうが嫌そうな顔をすればする程、優越感に浸れる。

それはまるで雄が同族の雄に対して優位を示すかの様な、恋人同士の甘ったるさとはまた異なるもので。

「たとえこのスパークが散ったとしても、お前に教える事は無い」

所有者は、メガトロン唯一人であればいいのだから。

そう告げれば、腹にすえかねたのかスタースクリームがかぷりと鼻に噛みついた。

湿った感触は、舌が最後の悪戯代わりに鼻先を舐めたからだろうか。

漸く笑みから顰め顔へと表情を変えた大帝に、今度はスタースクリームがにんまりと笑んだ。

「ザマぁみろ」

「・・・・」

メガトロンの掌が、スタースクリームの尻を鷲掴んだ。

ヒッと思わず声を上げた愚か者を腕力のまま引き寄せると、メガトロンはこの上なく甘い声でその聴覚センサーに囁いてやった。

「たまには可愛い事をしてくれる」

もう少し愛でてやる。

その言葉に、スタースクリームはオイルが引いていくのを感じた。

「え、いやちょっとボス、アンタ」

「誘ったのはお前だろう」

「っちげーし!!オレサマはっ・・・」

続きは、破壊大帝に口づけられた事で飲み込まれてしまった。

 

 

やがて響き始めたのは、怒声ではなく嬌声で。

あと暫くもすれば、今度こそ立てなくなったスタースクリームが再び大帝と共にベッドに横たわる事は明白であった。

 

 

 

 

*******************おしまい****

またまた某方へのお年玉小話でした。

人間みたいに鬱血はしないだろうから、こういう「キスマーク」なのかなぁと。

TFAメガスタすき・・・!

2013.01