メガトロンはただ暇を持て余していただけかもしれない。

しかしスタースクリームが『破壊大帝の膝に乗り上げ、その腕の中にいる』などという姿はどう考えても異常だ。

一体何故こんな事になったのか、スタースクリームは良く良く己のメモリーを遡っていた。

 

 

 

 

SH

 

 

 

 

珍しく、本当に珍しく真面目に仕事をしていた時のことだった。

ネメシスはディセプティコンの最高性能を誇る船だが、万事に於いて自動操縦というわけにはいかない。

雑用は主に他の連中に押し付けているのだが、小難しい星間運行の計算は自分の仕事だ。

当て度の無い旅に悪態の一つもつきたくなるが、忠僕を装っている以上メガトロンの前でそんな真似は出来ない。

渋々と惑星間の影響を調べキーを操作していると、不意にあの破壊大帝が声をかけてきたのだ。

寄れ、とただ一言だけの命令。

水面下で進めている反逆計画がばれたのかと一瞬冷却オイルが背中を通ったが、命令のまま歩み寄り傅いたところで大きく腕を取られた。

――――そうして気付いたら、自分は破壊大帝の膝の上にいたのだ。

 

 

 

 

自分が膝を折っていた場所と、今座っている場所の認識誤差におよそ三秒。

アイカメラは暗いネメシスの艦床を見つめていた筈だが、何がどうして破壊大帝の胸で、彼の顔を見上げているのか。

「っなぁ、ああっ!?」

「喧しい」

煩わしそうに目を細められ、その剣呑な赤に思わず口を噤んだ。

状況を理解すべくブレインサーキットをフル回転させるスタースクリームを余所に、メガトロンは部下の手首を掴みしげしげと見入っている。

「・・・あのぉ、メガトロン様?」

「何だ」

返事こそすれ、大帝のアイカメラがこちらに向く事は無い。

俺様のイケメン顔がすぐ傍にあるってのに、事もあろうに手ぇ眺めてるってどういう事だ。

訳のわからない主君に怒りが煮えたぎるが、どうやら反逆計画がばれたわけではないらしい。

では一体どういう事なのか。プライドを押し殺し、スタースクリームは殊更慇懃に訊ねてみた。

「閣下、これは如何なる事でありますですかね」

「―――貴様の手が」

黒く逞しい指が、スタースクリームの掌をぐいと強めに押す。

「っ」

メガトロンにとっては押したという認識さえ無い様なものだろうが、機体規格が違うスタースクリームにとっては痛みを感じるに充分な圧力だった。

ただでさえ、破壊大帝の手にすっぽり覆われてしまう程なのだから。

「貴様の手が、物珍しいと思うたまでよ」

「左様でございますか」

受け答えこそ慇懃だが、実際のスタースクリームはアイセンサーの範囲外である事を逆手に、『馬鹿力が痛てェんだよこん畜生』、などと、大いに表情だけで物語る。

「我の手とも、ブリッツウイングのものとも違う」

「アームの形なら、ラグナッツの方が変わっていると思いますですがねぇ」

たっぷりと皮肉をまぶした言葉に、返事があるとは思っていない。

全く、破壊大帝殿はブレインまで錆ついているのかと思えば、そんな事を考えていたのか。

暇で結構な事だと感想を抱くものの、掌の中心部を緩く引っ掻かれるやスタースクリームの体が跳ねた。

「ひッ・・・!?」

「む?」

目に見える程大きく跳ねた驚き様に、スタースクリーム自身も動揺している。

メガトロンが掌に触れている。それが現状だ。

だが圧力を与えられる先程と違い、今は戯れの様に引っ掻かれただけだ。

今までに経験した事のないエラーは中々消化出来ず、スタースクリームのブレインに緩く纏わりついている。

動揺を飲み込めずにいるスタースクリームに、メガトロンは更なる関心を寄せた様だった。

スタースクリームの手を掴んだまま、微かな接触を与えては反応を見ている。

かり、と引っ掻かれる度に背中が大きくしなった。

 

「っメガト、ロ・・・さま、・・・・・何、を」

 

処理し切れないエラーがどんどん積み重なり、ブレインサーキットをまともに働かせてくれない。

そのせいで機体熱が高まり、バランサーにさえ故障が発生する。

己を抱く大帝に縋る様に凭れれば、極近しい距離に相手の顔が見えた。

アイカメラから冷却液を滲ませるスタースクリームに、メガトロンは愉快そうに笑っている。

 

「――――貴様の手は随分と対物センサーが鋭い様だな」

 

指を交わらせ掌を重ねたと思えば、割り開かれた指の間から相手のそれがゆっくり退いていく。

ただそれだけの刺激にブレインが焼き切れそうな程の感覚を覚えた。

「うぁ、あ・・・・・っ、・・・!?」

「ほう、これにも感じるのか」

ぞくぞくと全身を駆け巡る刺激は、痛みではなくもっと何か別のものだ。

それが判らないから、こんなにも恐ろしい。

戦慄くスタースクリームに、メガトロンが視線を外さないのも嫌だった。

こんな無様な姿を見られ、嘲られるのは御免だ。

悔しさに睨み上げるが、破壊大帝はそんな2の一瞥など気にも留めていない様だった。

 

代わりに、まるで喰らう様に――――スタースクリームの指を、舐めてみせた。

 

「ひっ、ァ・・・・っ?!?」

あのメガトロンが、自分の指を舐めるなどという状況にまず己のアイセンサーを疑った。

固い指の感触と違い、軟質素材とオイルに絡められた舌は今まで以上にスタースクリームの思考及び神経回路を掻き乱す。

しかし振りほどこうにも、手首はメガトロンに捕えられたままだ。

「やっやめ・・・・・・!!!」

指先の尖った部分から、付け根の辺りまで。

柔らかな舌の感触に翻弄され、ものを考えられなくなる。

制御不能になったアイセンサーからは冷却液が絶え間なく溢れ、キャノピーに伝い落ちた滴がメガトロンの膝をも濡らした。

あ、と一瞬視線がそちらに向くが、破壊大帝は己から目を逸らすのを許さなかった。

がり、と指先を噛まれるや、スタースクリームは声さえ上げられずに仰け反った。

「――――!!!」

異星のけだものの様に、ただ捕食者としてこちらを見下す赤い眼光。

「大袈裟なものだな、スタースクリーム」

「・・・っ」

 

その苛烈さにスタースクリームが目を離せずにいると、大帝はそれきり興味が失せたとばかりに己の膝から部下を払い退けた。

 

「ぎゃっ!?」

べしゃ、と無様に転がった機体が起き上がる間に、メガトロンはまたあの頬杖をついた常の体勢に戻っていた。

「実に興味深いものだった・・・下がれ」

あれだけ好き勝手な振る舞いをしておいて、結局この様か。

「〜〜〜ッアンタなあ!!!!」

ブレインが正常運転を取り戻したのを幸いにスタースクリームが詰め寄るが、大帝は煩わしそうにアイカメラを細めている。

「何だ」

「何だじゃねぇよこのイケメンを散々にしておいてどういうつもりだよむしろこっちが『何のつもりだ』だよおたんこなす!!!」

偽りの慇懃さも捨てて感情のままに怒鳴り散らせば、メガトロンはやや悪戯めいた笑みを浮かべている。

「ほう?では、続けてやろうか」

そう言って伸ばされた手に、スタースクリームは見て判る程に動揺した。

「っいや、それは・・・・・・・・・・あ、そういえばブリッツウイングに用がありましたので、ワタクシめはこれにて失礼致しますですぅ!!」

焦ったかと思えばたちまち己を取り繕い、足早に去っていく部下。

メガトロンは無礼を咎めるでもなく、鼻を鳴らした。

「ふん・・・・・・上手く逃げたな」

 

 

 

それが常の不機嫌さから来るものではなく、むしろ満足から来るものであった事は――――メガトロン以外の誰も、知らない。

状況に飽和気味だったのは大帝も同じ事だが、部下共と違いメガトロンは良い玩具を見つけた。

腹に一物も二物も抱えた2に、あんな弱点があったとは意外だった。

存外に、良い退屈凌ぎだった。

何よりも耳触りに喚くのではなく、哀願するあの表情が気に入った。

次はどこに触れてみようかと企む破壊大帝に、その標的にされた副官は気付く事なく―――廊下の壁に当たり散らしていたのであった。

 

 

 

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TFAスタスクの手はえろい=きっとあれが性感帯に違いない。

11/05/01