あの一件以来、何となくスタースクリームは自分の手を気にする様になった。

 

 

 

SH!2

 

 

 

 

自分のパーツの一部など見慣れ過ぎていて、特に興味を引いた事は無かった。

しかしあの時、メガトロンは執着した。触れて、引っ掻いて、指を絡めて、――――舐めて、噛んで。

仕えてから今まで想像だにしなかった破壊大帝の行動に、記憶ログを辿る今でもあの時の惑乱を思い出しげんなりする。

他者を弄ぶのは好きだが、弄ばれるのは御免だ。

厄介な事に、あれ以来破壊大帝は隙あらばこちらの手に触れようとしてくる。

スタースクリームが驚き見上げると、その度愉快そうに口の端を吊り上げ。

いつもどこか不機嫌そうに押し黙っている顔ばかりだったというのに、最近はあの得意気な表情を見る方が余程多い。

また“あんな事にならない様に自衛の手段を考えるのは、スタースクリームにとっては当然の事だった。

 

しかし不思議な事に、自分で確かめた限りではあの現象は起きなかった。

メガトロンが行った接触のうち、何をどうしても――――あの様な不具合は、起きない。

言葉巧みにブリッツウイングを騙して実験してみたものの、やはり起きないのだ。

だとすると原因は自分ではなく、破壊大帝の方にあるのかもしれない。

しかし何だ。ウイルスか?だとしたら厄介だ。

確かめるにはまずサンプルを採らねばならない。しかしどうやって。

 

そうやって悶々と考え込み手を翳していた、その時である。

ぷしゅん、と圧縮した空気が抜けて行く音がして、部屋に誰かが入って来るのが判った。

アホのラグナッツだろう等と適当にアタリをつけ振り向きもせずにいると、訪問者は声を掛けるでもなく無言で後ろに立つ。

 

「お前の壊した右舷の修理が終わったんならこのイケメン様に報告ぐらいしたらどうだアホナッツ」

「・・・」

 

無視かよ。

ラグナッツの癖に生意気な真似しやがって。

 

お仕置きが必要だなと態とらしく排気し、己の掌から前面のモニターに視線を映した瞬間―――スタースクリームは絶句した。

「ぼぼぼぼぼ、ボスぅ?!」

艦外をチェックする為のモニターは、退屈な航行の間にただ操作者のフェイスパーツを反射させる鏡同然になっている。

自分の機体が整っている事を自認するスタースクリームにとってはお気に入りの席だったが、背後にまさか破壊大帝が映っていようとは思いもしなかった。

「こっこれはこれは賢くて偉大なボス、失礼致しましたですぅ!!ワタクシめはその、ラグナッツの奴がまた何かへまでもしたのだと…!」

慌てて振り返り取り繕うものの、メガトロンはあの赤いアイセンサーを微かに眇めただけだった。

その表情にスタースクリームは尚も恐慌し、いらない事をべらべらとまくし立てた。

「まっ間もなくネメシスは宇宙港に立ち寄り補給を行う予定であります、我らが偉大なるボスには恙無くお過ごし頂ける様当機は安全運転を心掛け・・・」

「黙れ」

全く以て端的な言葉に、スタースクリームの口がぴたりと閉じた。

やり過ごす事だけを願い連ねた言葉は、何ひとつ役に立っていないらしい。

そんな有様では尚弁解するより、まず言われた通り口を噤んだ方が余程良いという事を、スタースクリームは知っていた。

要求通りに黙った部下に、メガトロンはやはり何事か考え込んでいる様だった。

その視線が手に向いている事に気付くや、スタースクリームのブレインにあの時のログが蘇る。

「っ、」

ごくさり気ない――――実際にはバレバレの―――所作で己の手を視線から庇うと、注視していた破壊大帝がじろりとこちらを睨む。

間違いない、これは不満に思っている時の顔だ。

だが弄ばれるのは誰だって御免だ。

あんな風に、また自分の体のコントロールが利かなくなる様な感覚を味わうぐらいならば――――怒りを買って主翼を捻じ曲げられた方が余程マシだった。

「スタースクリーム」

「なんで、ございましょう?」

言いたい事は判っている。

そしてメガトロンも、スタースクリームが見て見ぬふりをしている事に気付いている。

これはカノン砲が来るかと身構えるスタースクリームであったが、破壊大帝は懸命に平静を装うこちらの顔にフッと笑みを浮かべただけであった。

その態度は、スタースクリームを拍子抜けさせるに充分な効果があった。

思わずへっ、と間抜けた声を洩らした、その時だった。

 

「ひゃう!?」

 

予想していなかった触覚に、スタースクリームが慄いた。

驚き確かめれば、腰の辺りをまさぐるメガトロンの手が、そこにあった。

「っな、何して・・・っ」

「何、ちょっとした実験だ」

気にするな、などとのたまうメガトロンの表情は悪童そのもので、スタースクリームは今すぐ武器の照準を定めたくなった。

だがこれだけ密着していては、遠距離用である己の武器は役に立たない。

腰のあたりを擦っていた手は、ゆるゆると下り今度は腿の辺りを這っている。

指を順繰りに遊ばせる様な動きが気持ち悪くて、スタースクリームは深く排気した。

覚えのある感覚は、手指に触れられた時と全く同じものだ。

「ぼ、ス・・・っ・・・!!」

「―――ふむ、やはり触覚センサーはこちらにもあったか」

己の脚だと言うのに、立つ事さえ難しい。

覚束無く、崩れそうになった所で破壊大帝の膝に脚を割られへたり込む事さえ禁じられてしまった。

思わずスタースクリームが見上げるものの、メガトロンは相変わらずあの嫌な笑みを浮かべていて、それが無性に腹立たしかった。

何故メガトロンが触れた時だけ、こんな事になるのか。

ああもう嫌だ、考える事さえ面倒臭い。

縋るものを求めもがいた手は、メガトロンの胸の辺りについてキッ、と小さな爪跡を残す。

殴られるかもしれないとブレインサーキットの冷めた部分が嫌な予想を立てたが、メガトロンは己につけられた傷を見、艶然と笑っただけだった。

面白いおもちゃを手に入れた今は、その抗う様子さえ楽しいらしい。

膝と片手でスタースクリームを支えたまま、破壊大帝が身を屈めスタースクリームに顔を寄せる。

 

「           ?」

 

聞き終わる前に、スタースクリームの機体はダウンした。

凭れかかる部下の体に、メガトロンは小さく唸ってその身を引き剥がした。

掴んだ腕以外をだらりと弛緩させ、喚き声一つ洩らさない。

スタースクリームの静かな姿など目にした事の無いメガトロンであったが、あまりにも反応が無い事にいい加減飽き、脇に打ち遣った。

無体な扱いをされて尚、跳ねっ返りの2が起きる気配は無かった。

「・・・つまらん」

興が削がれたわ、と不満げに呟くと、メガトロンはそれきり黙って部屋を後にした。

ただ時折、脚を撫で上げられ甘く鳴いたスタースクリームの表情を、思い出しながら。

 

 

 

 

その後暫くしてから、再起動したスタースクリームは状況を把握するや地団太を踏みまくった。

勝手にやってきて、なんだかよく判らないが触って、ダウンさせられたと思いきやこの放置っぷり。

この屈辱がメガトロン暗殺計画への意欲を煽ったのは、言うまでもなかった。

 

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(S)セクシャル(H)ハラスメント!!

全身性感帯なスタスクばっくしょう。

さて破壊大帝は何と言ったのでしょう?←

 

2012.07.28