一瞬の出来事だった。

気流の急激な変化、重力の推測、地質――――全て調査不足だったと言わざるを得ない。

記録上では一行で終わってしまうだろう、そんな些細なミス。

ただ、普段は慎重な筈のスカイファイアーが珍しく興奮した様子だったから。

ただ、未知のものに対する探求心でスタースクリームが先導したから。

全てが悪い方向に傾いてしまった。

 

 

15.

 

 

不気味な程白い世界だった。

氷点下の気温の中、それを強調する様に冷たい吹雪が吹き付ける。

踵部のジェットエンジン口が氷結している事から、墜落の原因は恐らくそれだろう、などとブレイン内の変に冷静な部分が告げていた。

そんな事よりも、共に墜落した筈の白い機体が傍に見当たらない事の方が重要だった。

体表を薄く覆う氷をぱりぱりとく砕き、必死の思いで体を動かす。

「スカイファイアー!!!」

呼び声は、こだまにすらならなかった。

もっと強い音――――風が、掻き消してしまうのだ。

視界さえもただ白く、気をつけていないとアイカメラの表面さえ氷が覆っていく。

「スカイファイアー!どこだ!!返事しやがれ!!」

返事が無い事が、ひどく恐ろしかった。

あいつはいつでも、のんびりした様子で応えてくれたのに。

「スカイ、ファイアー・・・・!!」

どこもかしこも真っ白で、探し出せない。

 

こんなに寒い思いをした事は無かった。

あの薄汚い路地裏で暮らしていた頃は、サンダークラッカーとスカイワープと、互いを温める様にひっついて眠って。

メガトロンの庇護下に入ってからは、きちんと屋根のある場所で。

で学ぶ様になっても、寒い思いなんてした事はなかった。

なのに今、どうして。

 

薄暗くて、寒くて、――――痛い。

 

「っ畜生・・・!」

無理やりジェットを点火させ、凍り始めていた周囲を機体の熱で融かす。

下手をすれば飛んだ瞬間にまた氷結する可能性があったが、ほんの一瞬見えた気流に縋る思いで舞い上がった。

飛ぶには最悪の飛行条件だ。スカイファイアーの機体がもろに煽られ墜落した程なのだから、当たり前だ。

それより余程小型のスタースクリームは、襲い掛かる暴風にただ舞い上げられるばかりだった。

安定しない飛び方は普段の飛行より余程エネルギーを食うが、それでもスタースクリームは懸命にあの白い機体を探した。

スカイファイアーの姿は、どこにも見当たらない。

星を一周した頃には、エネルギーはほぼ空だった。

「っ・・・・」

 

何でも出来ると思っていた。

なのに今、何も出来ない。

見慣れた友を見つける事さえ、出来ない。

 

アイカメラから溢れる冷却液は、結晶化して飛散していく。

見切りをつけねばならないのだ。

愚鈍な連中に頭を下げて、捜索隊の要請をしなければ。

その為に、離れなくてはならない。

何処かにいる事は確かなのに、置き去りにして、帰らねばならない。

「ちく、しょう・・・」

使う予定など無かった救難シグナルを起動させ、スタースクリームの機首がぐんと上に向かった。

空気の層を幾つも突き抜け、重力に主翼がギシギシと軋む。

エネルギー不足でブレイン内のあちこがエラーを訴えたが、スタースクリームは飛び続けた。

 

 

 

を抜けた頃には、己の機体は見慣れた宇宙空間の中に漂っていた。

ブレインサーキットは近々強制終了する旨を伝えており、エンジンが止まってしまった為に自力で飛ぶ事さえ出来ない。

シグナルは動いているから、近いうちに回収船が来るだろう。

ただ今は、目の前の――――友を引き離した星を眺める事しか出来なかった。

あちこちで白い雲が渦巻く、青い星。

訪れた時、スカイファイアーは綺麗な星だと言っていた。

あの時自分は、賛同した。何が待っているかも楽しみだと。

しかし今はそんな感情は霧散してしまった。

ただ原始的で野蛮で、嫌な星だ。

自分から彼を引き剥がした、胸くそ悪い星。

 

――――大嫌いだ。

 

ブレインが停止する直前まで、スタースクリームはその星を睨み続けていた。

 

 

 

 

 

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2012.04.16