※ジェットロン幼少期捏造妄想です。

 

 

 

3.

 

 

 

おかしい。

未だ戻ってこない同型機に、スタースクリームは唇を噛んだ。

朝は確かに、二人で出て行った。

しかしそれはスタースクリームの邪魔させまいとするサンダークラッカーの判断であり、それならもうとっくに戻っても良い時間の筈だ。

―――あの馬鹿共、またワープに失敗して変なとこに引っ掛かってんじゃねぇだろうな。

以前、そんな事があった。

スカイワープが自分の能力を知ったばかりの頃、試してみようと無暗に力を使ったのだ。

結果制御しきれなかったスカイワープは、この路地の先にある古ぼけたモニュメントに引っ掛かった状態で発見された。

幼年体がそんな位置にいたところで、この界隈の連中は別に助けようとなんてしなかった。

ただ馬鹿にして笑い、去っていく。それだけなのだ。そして自分達はそんな場所で暮らしている。

主翼に罅が入って動けなくなっているスカイワープを、サンダークラッカーと二人で助けに行った。

 

リペアするには、自分達の環境は劣悪だ。

技師はいるにはいるが、自分達を見て馬鹿にし、法外な報酬を突きつけてくるだろう。

実際以前サンダークラッカーが負傷した時もそうだった。

だから自分達は、自分達でリペアするしかなかった。

痛いと喚く彼を抑えつけて、不格好なリペアをした。そうやって、自分達で何度もお互いを直してきたのだ。

三機、揃っていなければいけないのに。

 

「・・・・あの馬鹿共、どこほっつき歩いてやがる!」

がこ、と苛立ち紛れに傍にあった廃材を蹴りつけた。

錆ついたそれは簡単に放物線を描き、からからと音を立てて転がっていく。

 

不意に、聴覚センサーが無数の足音を捉えた。

「!」

 

ジャンクヤードをぐるりと囲んだそれらは、スタースクリームの存在を確認するとじりじりと詰め寄って来る。

―――――棲家が、ばれたのだ。

恐らくあの二羽も、捕まってしまったのだろう。

今までエネルギーをくすねに入った場所はどこもザルな警備ばかりで、馬鹿な連中だと鼻で笑っていたのに。

まさか昨日の今日で、こんなにも早く自分達が見つけられてしまうだなんて。

歯噛みしていると、脚部のすぐ傍を撃たれた。

「ッ!」

廃材が簡単に飛び散った事からして、かなり強力な銃だ。それを、たかが幼年体一機相手に幾つも向けている。

じりじりと狭まる包囲網に、スタースクリームはジェットを点火した。

どうせ大人連中に翼は無い。空に出ればこっちのものだ。

一際大きくジッェトを噴かしてやれば、その風に舞い上がった廃材が大人達の目晦ましと妨害に役立ってくれた。

逃がすな!と誰かが叫んだのが聞こえる。

馬鹿な奴だ。誰も俺さまを捕まえられやしないのに。

飛び掛かって来た大人達を軽やかに避けると、スタースクリームは一気に空へと飛び立った。

だが。

 

「っな、――――!?」

 

空は、いつだって自分達三機だけのものだった。

それなのに、今し方飛び立ったスタースクリームの前には、見知らぬ『大人』がいた。

自分達の様に翼を持たない、あの青い機体だ。

バイザーとマスクで覆われた顔から、表情は読めない。

唖然とするスタースクリームを一瞥したその機体は、聊かの躊躇いも無くスタースクリームへ手を伸ばし―――その小さな機体を、地面へと叩きつけた。

「!!!」

咄嗟に脚部のジェットを逆噴射させ激突こそ免れたものの、低くなった事で地上で群がっていた連中に捕まってしまった。

「っくそ、離せぽんこつ!!」

抑えつけようとする大人達の腕を掻い潜り暴れるが、所詮は幼年体の腕だ。呆気なく捩じ伏せられ、更には手荒に叩きつけられた。

喚けば口を塞がれる。その手に噛みつけば、今度はもっと強く腕を捻り上げられる。

主翼に罅が入り、ブレインがエラーを伝えた。

「痛、っちく、しょう・・・離しやがれってんでぃ!!」

きっと昨日の恨みも当てられているのだろう、大人達に容赦は無かった。

盗みをすれば捕まる。そして酷い目に遭う――――それは判っていた事だ。だがまさか、こんなに早くスクラップになるとは。

悔しさに歯噛みするスタースクリームの前に、あの青い機体が静かに降り立った。

他の連中が退き、彼とスタースクリームの間に道を作るのが判る。

誰かが何か言っている。恐らく、スタースクリームが昨日の一件の主犯だとでも言い付けているのだろう。

バイザーをした機体の表情は相変わらず読めないが、スタースクリームをじっと見下しているのは判った。

「っ、」

「・・・・」

青い機体はスタースクリームを一瞥すると、次に周りの連中へと面を向けた。

「―――盗まれたオイル缶とエネルゴンを全て回収しろ」

その言葉に、大人達がばらばらとジャンクヤードのあちこちへ散っていく。

先程までスタースクリームを捕えていたトランスフォーマーの一人は、未だ宙吊りのままの幼年体を見て疑わしげに首を傾げる。

「サウンドウェーブ様、それは如何致します」

「・・・飛行型のトランスフォーマーは珍しい。メガトロン様に献上する」

「こんな路地裏で泥棒の真似事をしているガキを、ですか?」

「他の二機に比べ、咄嗟の機転は悪くない。・・・悪足掻きをする所も、気に行った」

勝手に話が進んでいる様だが、どうやらスクラップになるまで僅かばかりの猶予が出来たらしい。

話しぶりから察するに、あの同型機二体もまだ生きている気がする。

ならば、逃げ出すチャンスはある。

主翼を捕える青い手を睨みながら、スタースクリームは不遜に―――成り行きを、見守った。

 

 

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サウンドウェーブさんは初対面から容赦ないと良い。