※ジェットロン幼少期捏造妄想です。
7.
メガトロンが基地に戻っていると聞いたのは、ほんの一刻程前だった。
廊下ですれ違った成年体が噂していて、それを聞いたスカイワープが会いたいと駄々をこねた。
サウンドウェーブは暫く無視を決め込んでいたが、痺れを切らしたスカイワープが実力行使に出た為、彼もまたカセットロンを使うという実力行使に出た。
スタースクリームはというと、演習どころではない騒ぎに自主退室していた。
勿論それもサボリに違いないのだが、サウンドウェーブの意識は今スカイワープを追う事に向いている。
一人残されたサンダークラッカーが所在無くうろたえていたが、生憎スタースクリームに彼を誘うつもりは無かった。
実のところ、自分もメガトロンの所在が気になっていたからだ。
先に行動を起こしたスカイワープを囮に、学び得たハッキング能力を駆使し幾つもの扉を開いていく。
パズルを解く様な感覚で、スタースクリームは内心面白がらずにはいられなかった。
かつて路地裏で生活していた頃は、こんな事を何度もしたものだ。
最も、あの頃に比べれば取りかかっているパスコードはもっと難解だった。
自分達に与えられた権限では、居住エリアと演習場そして幾つかのプログラム・ルームにしか行けない。
以前軟禁状態に辟易し出口への強行突破を試みた事はあるが、その時は基地内の監視をしていたレーザーウェーブに捕まりこっぴどく叱られたものだ。
とはいえ元々飛行型である自分達にとっては、陰気な地下空間に留まり続けるのは耐えられなかった。
窮状を訴え続けた事が幸いしてか、あれ以来文字通りの『羽を伸ばす』時間が設けられたが―――それとは、目的が違う。
「・・・っし!」
ピピッ、と簡単な音を立てて開いたロックの隙間を、飛ぶ様に通り抜ける。
スカイワープの様に『会いたい』と真正面から認められる程、スタースクリームのプライドは低くない。
だからこれは己の能力の高さを示してやる為にやっているのだと自分に言い聞かせながら、スタースクリームは今まで立ち入った事の無いエリアへ進んでいった。
***
その日メガトロンは、部下から奇妙な連絡を受けた。
有能なサウンドシステムからの連絡はいつもの事だが―――珍しかったのは、その内容だ。
『スカイワープがそちらへ向かって逃亡した。追跡しているが、もし捕捉した場合は捕獲、回収を』
「・・・・うむ」
何事かと問い質したかったが、サウンドウェーブが珍しく怒気混じりであった為に口に出すのは憚られた。
中断していた新兵器の設計に戻ろうとするが、何となく手につかずモニターから目を離してしまう。
メガトロンに、仕事を任せればこれ程有能なものはいないとまで思わせたあの男が――――たかだか幼年体三機に手を焼くなどと。
その光景は幾度目にしようと、笑いを禁じずにはいられない。
くつくつと一人思い出し笑いを浮かべていると、ふと扉の方で微かな音が響いた。
どうやら件の逃亡者は、このエリアまで辿りついたらしい。
腹心を出し抜いた事を褒めるべきか、それとも命令違反を咎めるべきか。
思案しながら振り返ると、そこにはメガトロンにとって聊か意外な機体が立っていた。
「スタースクリーム?」
「あ」
ぽかんと口を開けた、赤い差し色の幼年体がそこに立っていた。
報告によると逃亡したのはスカイワープであって、スタースクリームでは無かった筈だ。
「どうした、・・・・いや、どうやってここまで来たのだ」
聊か驚きを隠せずにいるメガトロンに対し、スタースクリームはにんまりと笑みを浮かべ走り寄る。
「どうって、ふつうに・・・ロック開けて入っただけですぜ?」
「お前達に渡したパスコードではここまではやってこれない筈だが」
誰か成年体と同行したならばまだ判るが、それでもこの部屋自体極限られた者しか開けられない様になっている。
スカイワープの様に特殊能力を持っているならともかく、この幼年体にそんな能力は無い。
訝るメガトロンに、スタースクリームはといえば内心喜びでいっぱいだった。
まさか本当に、辿り着けるとは。
精々がスカイワープ共々サウンドウェーブに見つかって、拳骨を喰らった後に連れ戻される―――その程度だと思っていただけに、僥倖に感謝していた。
「まぁ、今までやってた事の応用でなんとか」
「ハッキングか」
あっさり言ってのけるスタースクリームだが、元々この基地の防衛システムはレーザーウェーブが作りだしたものだ。
それをまだ製造年数も二桁に満たない様な幼年体が、『応用でなんとか』解除してしまったとは。
「レーザーウェーブが聞けばひっくり返るだろうな」
「?」
溜息をつくメガトロンに、スタースクリームはやはり自分の仕出かした事の大きさを判っていない様だった。
「まぁ良い。それで、何の用だ?」
「へ?」
きょとん、とこちらを見上げる顔は、先程の得意げな表情に比べると随分幼く見える。
主翼を傷つけない様に抱き上げてやると、丁度視線が等しくなった。
「お前についての報告は受けておらぬが、スカイワープ共々儂を探しておったのだろう?」
「あ」
「何だ」
「・・・・・・・・」
急に口籠るスタースクリームに、メガトロンは益々溜息をついた。
拾い物の三機が、サウンドウェーブをからかい騒動を起こすのはよく聞いている。
どうせ今回も、特に理由なく彼を振り回しただけだろう。
有能な部下の心情を憚れば、あまり悪戯をしてくれるなと言いたいところだ。
「良いかスタースクリーム、スカイワープもだが―――」
「っあれ、何だ?」
説教の空気を読み取ったのか、急ぎスタースクリームが話を遮りデスクを指した。
そこには先程まで広げていた、新しい兵器の設計図が拡がったままになっている。
「麻痺機能を持つ武器の設計途中だ。そんな事より儂の話はまだ」
「っ見たい、見せてくれよ!」
「〜〜〜・・・せめて『見せてください』と言わんか」
どうあっても話を逸らすつもりらしい幼年体に、メガトロンはブレインに痛みを感じた。
ここで更に話を戻して、変な駄々を捏ねられても面倒だ。
そう諦め、抱き上げたままの幼年体をデスクの縁へと降ろしてやった。
「光線を浴びせる事で相手の身体機能を麻痺させ、生きたまま捕獲する事を目的とするものだ。パラライザーに近いがもう少し強力なものにしようと思ってな」
「ふーん・・・」
何度か試作品を作ってはいるものの、麻痺時間が短すぎる事など、欠点が多い。
まだ改良の必要があると久々に取り出してみた設計図なのだが、この武器は思いの外スタースクリームの興味を引いたらしい。
「・・・メガトロンさまに付属させるんで?」
「いや、儂には必要無い。が・・・・完成した暁には、お前に装備させてやっても良いぞ」
「!!」
俄然真剣に設計図を読みだしたスタースクリームに、メガトロンは少し考えた。
元々はレーザーウェーブの防衛基地に組み込む予定だったものだが、航空部隊に装備させるのも良いかもしれない。
地上の敵部隊を強襲すると共に、多くを生け捕りに出来る。
それは、良い考えだ。
アイセンサーをきらきらと瞬かせる幼年体に、自然とメガトロンも楽しみを見出した。
「よし、少しここに残るが良い。サウンドウェーブには儂から連絡しておく」
「!そうこなくちゃいけませんぜ!」
設計図を拡大しながら、メガトロンはデスクの上の機体に細部から説明を始めた。
成年体と幼年体が頭を突き合わせ協議する姿は、傍から見れば随分とおかしなものだろう。
それでも当人らにとっては酷く充実した時間であり、少なくともスタースクリームにとってはメガトロンを独占できる夢の様な時間だった。
数時間後、スカイワープを捕獲し終えその報告に訪れたサウンドウェーブが見たものは――――――
床いっぱいに試作品の設計図を広げ、仲良くスリープモードに入る銀と赤の機体ふたつであった。
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お子様の江戸ことば、かわいいと思うんです。
メガ様もスタスクもものづくりが好きそうなので、おでこぶつけ合う程熱中してたらいいなぁ・・・