噂通り、スタースクリームはとても優秀だった。
優秀すぎて、周りがついていけないのだ。
彼女と組んで真っ先に思い知らされる事実に、スカイファイアーとて多少落ち込まずにはいられなかった。
「何でこれが理解出来ねぇんだよ?!そのブレインは飾りか?!」
「…すまない」
理解出来る者は何故相手が理解出来ないのかが判らないし、理解出来ない者にとっては何故自分が理解出来ないのかが判らない。
そして多少なりとも己の才覚を自負していた者にとって、彼女の聡明さは屈辱でしかない。
だから、孤立してしまうのだろう。
いつも彼女が独りでいる理由が、何となく理解できた。
スカイファイアーを怒鳴り付けた後、スタースクリームはそれきり背を向けて己の作業を再開していた。
恐らくは、個人でプロジェクトを進められる様にする為だろう。
難解な数式を纏め、大まかな予想のうちから今日実験出来るものを選び、手筈を整える。
一度だけこちらを振り返ると、あの赤い眼を侮蔑に細めて嘲笑った。
「ドアはテメェの後ろだぜ?さっさと所長に泣きついてチームを外して貰うんだな」
「…」
成る程、これで多くは憤慨して去ってしまうのだろう。
罵倒に耐えながらプロジェクトを進めたとしても、一回こっきりを希望する筈だ。
「…」
辺りに散らばった概要を拾い集めると、スカイファイアーは黙って立ち上がった。
「スタースクリーム」
「…何だよ、まだ出ていって無かったのか」
「君の手を煩わせる事は判っている。…すまない、もう一度教えて欲しい」
「…あ?」
「このプロジェクトは私が提言したんだ。最後まで付き合いたい」
「足手まといはいらねえな」
「なるべく君の邪魔にならない様にするよ」
「……」
勝手にしろ、と小さく聞こえた。
尊大な物言いよりも、思いの外すんなりお許しがでた事の方が衝撃的だった。
だから、
「ありがとう」
そう礼を述べれば、スタースクリームが驚いてこちらを振り返った。
「…フツー、礼言うか?」
「私は思った事をそのまま言ったつもりだけど?」
「ならイカレてるぜ」
「君は断ると思ったんだ。けれど、『勝手にしろ』と言うのは付き合ってもいい、と取れる回答だ」
「ッ…愚図に時間を割くなんざ真っ平だぜ!」
「うん、私も努力しよう」
彼女は確かに聡明だ。
しかし、決して噂が真実ではない。
実際その後のスカイファイアーは一度で理解出来ず何度もスタースクリームの罵倒を受ける羽目になったが、めげずに再度教えを乞えば彼女はちゃんと一から教えてくれた。
後で仲間にその話をしたが、皆何故か呆れ返っていた。
曰く、それは自分のしつこさにスタースクリームが根負けしただけだと。
成る程そうかもしれない。
それでもスカイファイアーはスタースクリームに感謝したし、彼女への興味は一層深まった。
明日は何を話そうか。そう考えることさえ楽しかった。
****************おわる