「そんなわけで、君に御礼をしたいと思って」
「…お前馬鹿だろ」
呆れた表情。
何がまずかったかな、とスカイファイアーは首を傾げ考えた。
プロジェクトは、スタースクリームのお陰で予想より早く成果が得られた。
彼女と組んで判った事も、随分多い。
まずスタースクリームは、女扱いされる事を酷く嫌う。
実験中、別のチームが作っていたプロトタイプが暴走しこちらに突っ込んでくるというアクシデントが発生した。
その時スカイファイアーは身を呈して彼女を庇ったのだが、随分臍を曲げられた。
曰く、俺様一人で充分対処できた。
曰く、頼んでねぇ事に礼なんざ言うかよ。
この言い分に、謝罪に来ていた別チームが憤慨しスタースクリームを糾弾した。
助けてもらってその言い様はないだろうと、そうスカイファイアーを擁護した。
しかしスタースクリームは男達を一瞥しただけで、部屋から出て行ってしまった。
周りの連中はまだ文句を言いたい様だったが、スカイファイアーは彼女を追いかけた。
『スタースクリーム』
『…』
『待ってくれ、私も言いたい事があるんだ』
『…』
赤い眼が、ぎろりとこちらを見る。
大抵の者ならそれだけで怯んでしまうだろうが、スカイファイアーにとって彼女の睥睨は既に慣れたものだった。
共にプロジェクトを進めるうちに判った事は、山ほどあるのだから。
『…………すまない』
『?!』
彼女は、とても誇り高い。
『君がそういう扱いを好まないと知っていたのに…だからこれは、君への謝罪だ』
『……』
赤い瞳が、スカイファイアーを見上げる。
信じられない、とでも言いたげだ。いや実際そう思っているのだろう。
『――――お前、どんだけ下手なんだよ』
『下手も何も、私は私の非を話しているだけだ』
『……変わり者め』
勝手にしろ、と呟く声は小さい。
それでも、スカイファイアーには充分届いた。
スタースクリームの『勝手にしろ』は、こちらに任せるという事なのだ。
彼女はとても優秀で、とても誇り高い―――そして、結構判りやすい。
それが、スカイファイアーが知ったスタースクリームの性格だ。
紆余曲折を経て、プロジェクトは終了した。
予想以上の成果に所長は満足していた。プロジェクトを提案したスカイファイアーにとっては、それ以上だ。
だから、御礼をしたい。
彼女なくば、こんな短期間でこうも成果は得られなかっただろうから。
何がいいだろうか、と尋ねるスカイファイアーに、スタースクリームはうろんな目を向ける。
「…勝手にしろ」
それきり背を向け、去ってしまう。
「……うん、そうさせてもらうさ」
さて、何が良いだろう。
思案すること、それさえも楽しい。
インスピレーションを得るには、この場合資料室よりもシティまで出た方がいいだろう。
終業時間が楽しみだと思ったのは、今までで初めての事だった。
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