自ら申し出たとはいえ、これは難問だった。

このジャンルを得意とする者は勿論いるだろう。しかしスカイファイアー自身はあまり心得がなかったし、残念な事に知人でもこういった事に長けている者はいなかった。

女性へ贈り物をする際の心構えとは、これ如何に。

恐らくアルファートリンさえも悩ませるだろうこの問題に、スカイファイアーは真摯に取り組んでいた。

 

 

 

 

 

 

あまり女性的なプレゼントは歓迎されないだろう。

何せ彼女はそういった扱いを酷く嫌うから、当てつけかと機嫌を損ねる可能性は高い。

かといって己らの研究畑で考えても―――スタースクリームの事だ、既に彼女が知り得ているだろう。

これは困った。何も考えつかない。

ここ数日のスカイファイアーにとって、ブレインの半分以上がその問題と闘っている。

折角シティまで出かけた日も、これといった収穫は得られなかった。

同じプロジェクトに取り掛かっていた間に、観察は充分していたつもりだ―――――だが御礼となると、これは難しい。

御礼とは即ち、気持の問題だ。自分の感謝の意を表すものである。

そしてスカイファイアーは、ただならぬ感謝をしている。だからこそ、彼女に喜んでもらえる様な御礼をしたいのだ。

「これは難しい」

「えっ」

「あ、いやすまない。こっちの話だ」

同僚のレポートを眺めながら呟いてしまった為に、彼に妙な不安を抱かせてしまった。

 

 

 

    * *

 

 

 

「・・・それで?」

第三者が見たら、スタースクリームがふんぞり返っている様にしか見えないだろう。

しかしスカイファイアーは自分の体躯上彼女が上向くのは仕方ない事だと判っているし、赤いアイセンサーがこちらをちゃんと見つめてくれるのは嬉しかった。

「うん、一応私なりに考えてみたんだが――――食事に誘うにも、お互い研究で忙しい身だから。スケジュールを合わせるだけでまた一苦労だなと」

だからこれを。

そう言ってスカイファイアーが差し出したのは、赤いキューブだった。

うろんな目をしながらスタースクリームが蓋を開くと、中には小さなエネルゴンの粒がぎっしりと詰まっている。

仄かに漂う甘い香りを、嗅覚がキャッチした。

「・・・・・」

「どうかな」

濃いピンク色を暫く眺めた後、スタースクリームがぎろりとこちらを睨み上げた。

「お前、俺様を馬鹿にしてるのか?」

「そのつもりは無いんだが・・・何か気に障ったかい?」

 

今までにない反応だ。

空気の剣呑さとは裏腹に、スカイファイアーは興味深げに注視した。

 

「『女には甘いものでも与えとけ』ってか?」

「―――――ああ、しまったその考えは無かったな」

「あ!?」

「いやすまない、ちょっと」

思わず口に出してしまったが、成る程と一人感心する。

確かに世間にはそういう考えがあった。それに気付かなかった自分は、情報収集ミスだろう。

「正直な所、何を贈ったら良いか判らなくて。突っ返される可能性もあるだろうし、ならいっそ自分の好きなものにしてしまおうかと」

「・・・はぁああ?」

まぁ、打算があったのは事実だ。

企みがバレた子供の様に苦笑していると、スタースクリームが鼻で笑った。

「・・・・男のくせに、こんな甘いモンが好きなのかよ」

「好きだね」

「・・・・まさかその図体で買いに行ったってのか?」

「私は常連らしいよ」

「・・・・恥ずかしいとかそういう感情は無ぇのかお前」

「どうして恥ずかしいと思うんだい?」

「・・・・」

質問に質問で返すのは、あまり利口なやり方ではない。

けれど彼女の問いに、疑問を抱いてしまった。

別に取引禁止されている代物でもないし、こそこそ買いに行く必要はないだろう。

黙り込んでしまった彼女からは、答えは返ってこない。

このエネルゴンの味は知っている様だったが、否定も肯定もしていない。

気に入らなかったから、理由付けをしているだけだろうか?――――幾つか推測するうちに、一つ有力な手掛かりを思い出した。

女には、だとか男が、とかをしきりに口にするという事は、彼女がそれを意識している証拠だ。

そして更に思い出す。

彼女はとても誇り高い。

ならば、『女には甘いものという考えは、誇り高い彼女には酷く不名誉なもの』なのかもしれない。

だが、今のところまだ突っ返されてはいない。次に下手な事を言ったら、それこそ矜持を優先してしまうかもしれないが――――

 

「・・・・スタースクリーム」

「・・・・何だよ」

「先程も言った様に、私はこの味が好きなんだ」

「・・・・で?」

「常連になってしまったからか、店員が毎回少しおまけしてくれてね。けれどその分がどうしても余るんだ」

「・・・・」

「もし良かったら、今後も消費に協力してくれないかな?心遣いを駄目にしてしまうのは私も不本意だし、君が協力してくれたら助かる」

「・・・・・・・・そこまで言うなら、手伝ってやらんでもないぜ」

 

フェイスパーツを赤らめたまま、スタースクリームがぶっきらぼうに答える。

それきり背を向けてしまった彼女の手には、先程渡した赤いキューブがしっかり収まっている。

廊下の角を曲がるまで見送ってから、スカイファイアーはふわりと笑った。

 

 

 

 

スタースクリームはとても誇り高い。聡明で、そして――――甘いものが、結構好きだ。

先程の流れでだが、不定期ながら今後も会う事が出来そうだ。

次は何を知る事が出来るだろう。

そう考えるのは不敬だろうかと思いつつ、やはり楽しみにせずにはいられなかった。

 

 

 

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