第三者に言わせれば、三つ子の中で一番“まともなのはサンダークラッカーなのだそうだ。

一番頭の悪いのがスカイワープで。

一番性質が悪いのが、スタースクリームなのだと。

しかしそんな他人の意見など、弟妹は全く気にしていない。

それはサンダークラッカーも同じ事で、周りの目の節穴っぷりに呆れているのが本音だ。

 

 

サンダークラッカーと、三つ子の弟妹の話

 

 

 

 

最近のサンダークラッカーは、釣りにハマっている。

釣果などはどうでもよく、ただ釣り糸を垂らしてぼんやりしているのが心地良いのだ。

最初に釣り堀に出かけた時は他二名もついてきたのだが――――じっとできない二人は早々に飽き、先に帰ってしまった。

漠然とした“一人になってみたいという思いは、割と早くからサンダークラッカーの中にあった。

ただ他の二人は離れる事を嫌がったし、自分もなんとなくこの群れからはぐれることを恐れていた。

だからこうして休日の半日だけ、サンダークラッカーは群れから離れる時間を作った。

釣り糸を垂らして、ぼんやりしながら普段放置していた事を思い出して、考えてみる。それだけの為の時間だ。

考えるのは、他者には到底理解できまい自分達三つ子の中だけの事だ。

 

例えば、スタースクリームが未だに自分達のベッドに潜り込んでくる事。

いい加減高校生にもなって、と思うがどれだけ歳を重ねてもスタースクリームの情緒不安定は治らないだろうし、自分達も甘やかす事をやめないだろう。

甘いいちごミルクの様なスタースクリームの匂いは、サンダークラッカー達を軽い酩酊状態に陥らせる。

動物で言う、フェロモンに近いのかもしれない。最も自分達三つ子という群れの中だけの話だろうが。

ベッドをもう少し大き目のものにしようかと考えて、やめた。

それでは密着出来ない。から、意味がないのだ――――多分。

 

次に思い出したのも、やはりスタースクリームの事だ。

成績は良くても素行不良という、教師にとって大変な頭痛の種であろう彼女は昨日も生活指導の教員に呼び出されていた。

どうやら一昨日の、マラソン練習をさぼるべく体育教師を誘惑しようとしたのがバレたらしい。

頭に大きなタンコブを作り涙目で戻ってきた三つ子の一端は、眠る時までずっと教員に対する文句を言っていた。

達成感とか、真面目にコツコツとかそういったものを馬鹿にするスタースクリームにしてみれば、マラソンなど死んでもお断りなのだろう。

きっと当日はまた懲りずに女の武器を使うだろうな、とサンダークラッカーは予測している。

―――――ちょうど去年、同じくサボリを画策したスカイワープが堂々と『俺今日生理なんで』と言って体育教師に殴られた事を思い出し、三つ子の長兄は嘆息した。

顛末を聞いたスタースクリームはひとしきり笑い転げ、涙を拭いた後真剣にスカイワープの馬鹿さ加減を心配していたものだ。

サンダークラッカーからしてみれば、どっちも馬鹿なのだが。

 

その次に反芻したのは、スカイワープの事。

三つ子の次男にして、最大の馬鹿。自他共に認める馬鹿。スタースクリーム曰く『顔は俺様に準じていいが後は壊滅的な馬鹿』。

最近は近くに住むアストロトレインの所に入り浸って何やら色々知識を仕入れている様だが、エロ本と現実はリンクしていないと理解出来ているかは甚だ疑問だ。

一世代前のハードを借りてきて、スタースクリームと共に何やら盛り上がっていたのは覚えている。

その際並んで座るならまだしも――――スタースクリームがスカイワープの膝に座っていた事は、スルーしておいた。

「・・・」

実を言うと、サンダークラッカーは以前アストロトレインに釘を刺された事があった。

『お前はあの馬鹿二人とは違げぇだろうから言っとくが、自分達の関係ちゃんと思い出しておけよ』

一つ屋根の下に暮らしているが、それは自分達が血の繋がった兄弟だからだ。

しかし高校生にもなって、性別も違うというのに周りが引くほどべたべたと慣れ合うのはまずい。

アストロトレインはそう言いたいのだろう。

どうやら幼馴染の兄貴分から見ても、自分達―――特にスカイワープとスタースクリームの姿は、世間一般常識から逸れつつあるらしい。

 

緩く溜息をつくと、丁度釣り竿がぴんとしなっていた。

手繰り寄せるのにもたついているうちに、“アタリは突如として手ごたえを失くす。

どうやら逃げられてしまった様だ。

針を引き上げれば成る程餌だけ綺麗に無くなっていた。

本日何度目かも判らない溜息を零していると、今度は釣り具を入れてきたエナメルのバッグからケータイの着信音が鳴り響いた。

ずっと昔に流行ったロボットアニメの主題歌。その着信音に指定しているのはたった一人だけだ。

同じ顔をしていても決して間違われる事の無い、同い年の

ディスプレイに表示された名前に、さて何をやらかしたのだろうと身構えつつ出れば―――

 

『あー、サンダークラッカー?俺』

「ん」

基本的に誰かの個人行動を嫌うのはスタースクリームであって、スカイワープは然程執着していない。

多分、自分と同じ男同士だからだというのもあるだろう。

サンダークラッカーが一人で出かけている時、電話してくるのは大抵スカイワープの役目だ。拗ねたスタースクリームは電話もメールもしてこない。

『帰り何時ぐらいになる?スタースクリームが新しい下着買うから付き合えって』

「あー?・・・んー、じゃあそろそろ切り上げる」

どうせ釣果は無い。

電話しつつ釣り竿を立てれば、先程から餌も無く垂れ下がっていた針が寂しく揺れていた。

『俺が見立てるって言ったら鼻で笑いやがった』

今更だ。

そもそもあのオヒメサマは、兄二人のどちらが意見しようと意に介さないのだから。

片方だけの意見では駄目、必ず両者の意見を求めてくる。その癖最終的には自分の意見を貫き通すのだ。

この間はスカイワープの見立てた黒に赤のフリルがついたショーツを低俗だと散々にけなした。

その前はサンダークラッカーの選んだキャミソールを、子供っぽいと一笑に伏した。

繰り返し行われるそんなやりとりに、通常のカップルとて嫌気がさすだろう。

「一時間ぐらいで戻るから、精々機嫌損ねない様にしとけ」

『お、おう』

電話はそこで終わった。

通話終了を表示するディスプレイに軽く息をつくと、サンダークラッカーはゆるゆると帰り支度を始めた。

 

 

 

そもそも高校生にもなって兄弟を女性専門といった店に引き摺り込んで選ばせるなどと。

――――――――――と、普通ならば思うに違いない。

だが生憎サンダークラッカーもスカイワープも、その関係をやめようとはしない。やめたいとも思わない。

クラスや街中でどんなに可愛い女の子がいても、すぐ我らがオヒメサマの方が圧勝だと感じる。

ぱっちりとした瞳も、自分達とは違う色のふくふくとした頬も、形の良いすっぽりと掌に収まる様な胸も、男を踏みつける為にある様な脚も。

他の何者も、勝つ事が出来ない。

勿論天は二物を与えず性格は最悪そのものだが、同じ胎から生まれ今日まで共に育つ仲には今更であった。

スカイワープも自分もお互い口にこそ出さないが、スタースクリームが女として持つたった一つのものを捨てる時は、自分達がいいとさえ思っているのだ。

それはもう、シスコンの域を超えている事は重々承知だ。

しかし何度考えてもその結論に辿り着くのだから、どうしようもない。

血肉を分け合い生まれた自分達では無く寝他の誰ともしれない男にスタースクリームを渡すぐらいなら、と。

アストロトレインが聞いたら、きっと呻くに違いない。

 

ただ若し、スタースクリームが兄達ではなく他の誰かを選んだとしたら――――サンダークラッカーは、二つ返事で納得するだろう。

そして多分、それなりに可愛い子を彼女に選んで、世間で言うまともな人生を送る事が出来るだろうと自覚している。

問題はスカイワープだ。

三つ子として言うのは何だが、あれは顔だけはそこそこ秀でている。が、完璧に頭が悪い。

誘われるままに女をとっかえひっかえする事は出来ても、スタースクリームを諦める事は不可能な気がする。

サンダークラッカーが懸念しているのはそこだ。

スタースクリームはそんな兄それぞれの思惑も知らないで、いやむしろこちらを異性とも思わず接してくる。

 

「・・・止めた」

詮無き事だと、サンダークラッカーはそれ以上考える事を放棄した。

続きはまた次の釣りの時にでも考えれば良い。

今はただ、あの我儘なオヒメサマに似合うランジェリーについて考える方が大事だ。

好きな子に自分の見立てた下着を身につけてもらうのは、男として無上の喜びなのだから。

「・・・・白、かな」

清楚だけど色気のある奴が良い。その方がギャップがあって良い。

スカイワープはまた黒とかの、色気に満ち溢れた奴を選ぶだろうから。

さてお姫様の今日の気分は如何だろう。

釣り堀の管理人に竿を返しながら、サンダークラッカーはのろのろと家路を歩き出した。

 

 

 

 

 

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サンクラは達観しているというか傍観気味というか。

爛れた関係なんだろうなーと理解していても止める気がないあたり、大概ろくでなし。