「聴覚センサーの反応が悪い?」

わざわざ閉鎖回線で告げられたというのに、音声返答してしまった事に気付いたのは、その後だった。

 

 

 

その頃、お留守番チーム。

 

 

 

 

『コエ、キコエナイ。 のいず、ヒドイ』

ぐいぐいと腕を引っ張り訴えるサンストームに、それまで手にしていた実験機材をデスクに戻しながらふむと考えてみる。

―――確か昨日は、セイバートロン星近郊で磁気嵐が発生していつもより多く塵が舞っていた。

あまり出歩かない自分と違って、サンストームはプライマスの声がどうのといつもふらふらしているから、塵を多く浴びている可能性がある。

恐らく回路に異物が入り込んでエラーを起こしているのだろう。

一応アイセンサーで確認してみると、サンストームの頭部パーツからはぱらぱらと塵が落ちた。

「・・・」

『?』

深く溜息をついてから、アシッドストームは同僚に閉鎖回線でリペアを請け負うと告げた。

実験を続けたいのは山々だが、サンストームの不調を無視するわけにはいかない。

今までの検査結果を軽く記録すると、同僚の明るい色彩に塗られた手を取って共にリペア室へ向かった。

 

 

    * *

 

 

 

一方その頃、レーザーウェーブはいつもと同じくモニタールームにいた。

未だメガトロンとの連絡は取れないが、サイバトロン共の動きはここ最近静かなもので、第三勢力が現れる様子もない。

部下達も今日は騒動を起こすことなく―――いや主に騒動の種となるのはサンストームなのだが―――静かな様だ。

つまり彼は、久々に静かな時間を過ごしていたのだ。

気を抜く事はしないが、恙無い時というものは防衛参謀にとっては有難い事だ。

磁気嵐は昨日のうちに去った。基地の補修箇所は今のところ見当たらない。

あとは絶対的主との通信が繋がれば、言う事は無い。

軽く排気し本日の記録をつけるレーザーウェーブだったのだが。

 

$”=~●×▽$”=~■※★○◆△□%#$#★○◆△$”=~`+*<{!!!!!!!

「??!!!」

 

聴覚回路を焼き切らんばかりの勢いで轟いた通信に、思わず椅子から転げ落ちてしまった。

「っな、何だ何事だ!?!」

何事かと慌てながらも、回線の送信者を確認すればそれは己の部下から発せられたものだと判明する。

「・・・・サンストーム?」

電文とはいえ、悲鳴の様に聞こえた。

しかし敵襲にしては様子がおかしい。

訝るレーザーウェーブであったが、意を決して部下に通信を入れた。

 

「サンストーム?応答を」

『△□%#$#★○◆!;!!!;;』

 

残念ながら、全く聞こえていないらしい。

聞こえるのは通信先の怒声、悲鳴―――悲鳴?

制止を求める声は、どうやらアシッドストームのものの様だ。

レーザーウェーブは即座にチャンネルを切り替えた。

 

「アシッドストーム、こちらレーザーウェーブだ。応答を」

『レーザーウェーブ様!?』

「何が起きている?サンストームに何があった?!」

『・・・・・・・・・』

「アシッドストーム?」

 

アシッドストームが、レーザーウェーブの問いに答えないのは珍しい事だ。

メガトロン直属の同型機達に比べてまだ経験は浅いものの、優秀な部下でもある。

そのアシッドストームが口籠るとは、彼の手に負えない事態が起こっているという事だろうか。

退避を命じようとしたその時、部下は酷く言い辛そうに通信を返した。

 

『ご迷惑をおかけしております・・・その、大した事では、ないのですが・・・』

「・・・?どういう事だ?」

『サンストームが聴覚回路の不調を訴えたので、リペアしようとしたところ――――私の技術が、その、下手だと言われまして・・・痛いと』

「・・・それで泣いているのか?」

『はい』

 

報告に、思わず頭を抱えた。

溜息を零さなかっただけでも自分を褒めてやりたいが、まずは部下が先だろう。

 

「―――アシッドストーム、サンストームをこちらへ連れて来る様に」

『はい』

「それとリペア器具を持ってきてくれ。私が診よう」

『・・・申し訳ございません』

 

通信の向こうでは、まだサンストームの喚き声が聞こえている。

チャンネルを切断した事でモニタールームには静寂が戻ったが、さして間を置かず、同じ怒声がこの部屋に響くだろう。

憂鬱な未来に、レーザーウェーブは今度こそこっそりと溜息をついた。

 

 

    * *

 

 

%#$#★○◆△$=!!●%#☆▼$#★○**;!!!」

癇癪を起こした子ども、という表現が一番しっくり来るだろうか。

頭部の―――聴覚回路を手で庇いながら、サンストームは最早言語ではなく音でアシッドストームを糾弾している。

その糾弾にむっすりと黙るアシッドストームもまた、暴れられた際につけられたのだろう細かな引っ掻き傷をあちこちに作っていた。

上背の低い部下達に目線を合わせてやりながら、レーザーウェーブは目視で状況を確認する。

「ふむ・・・塵が目詰まりを起こしているだけか?」

「その様です。除去すればいいだけなのですが、・・・申し訳ありません」

アシッドストームがそう述べるが、どうやらこちらの部下は上司の手を煩わせた事を申し訳なく思っている様だった。

気にするなと軽く声を掛け、レーザーウェーブは床に腰を降ろして自分の膝を叩いた。

「よしサンストーム、すぐ終わるからじっとするんだぞ」

『・・・』

拗ねた様に頭を預けるサンストームに笑って、その頬を撫でてやる。

「あの・・・レーザーウェーブ様?」

「うん?」

「何を・・・なさっておいでで?」

「リペアをするつもりだが」

何を今更、と首を傾げるレーザーウェーブ。

その膝に頭を預けたサンストームも、同型機を不思議そうに見上げている。

膝枕の二機に、アシッドストームは困った様に視線を彷徨わせているが、生憎レーザーウェーブにはその理由が判らない。

モニタールームという性質上、空いたデスクが無いのだ。

防衛参謀として留守を預かる以上、部屋を離れる訳にもいかない。

妥協の結果床でリペアを施す事にしたのだが、もしかして他に良い案があったのだろうか。

アシッドストームがそれきり―――何故かフェイスパーツを赤らめているが―――何も言わないので、そのまま作業を開始する事にした。

 

 

 

 

 

「ふむ・・・随分塵が詰まっていた様だな。今まで良く不調にならなかったものだ」

レーザーウェーブのリペアは、異なる機体にしては手際が良かった。

先程あれだけ暴れて嫌がったサンストームも、実に大人しく除去作業を受けている。

何に於いても有能な方だ、と憧憬の眼差しで見つめている緑の機体がいる事には、生憎気付いていない様だが。

少しずつ塵を器具で吸着しては、目詰まりを起こしていた部分を治して行く。

右側が終わって、今度は左側。

こちらもさして時間を掛けず、リペアは完了した。

音声認識のテストを軽く繰り返したが、問題は無さそうだ。

「どうだ?」

「聞こえる」

主翼をパタパタと動かし喜ぶ黄色の機体に頷くと、次に防衛参謀は極自然な動作で緑色の機体を呼んだ。

 

「よし、次はお前だ」

「――――は?」

 

手招きをする上司の姿に、アシッドがアイカメラを瞬かせた。

 

「お前もパトロールに出ていただろう?サンストームの様に目詰まりを起こすと厄介だぞ」

「っい、いえ、っそそそその、私は、自分で・・・!!」

何を言われているのか漸く理解した若いジェットロンは、これ以上無い程フェイスパーツを赤らめている。

「自分でのメンテナンスでは、完全な除去は出来ないだろう。お前に不調が出たら、私が困るのでな」

「〜〜〜で、すがっ・・・」

まだ何かと理由をつけ逃れようとするアシッドストームに、レーザーウェーブは悪戯っぽく笑って見せた。

「何だ、お前もリペアが嫌いだったか?それとも私の腕では信用出来ないか」

「左様な事は!!!」

即座に言い切ったアシッドストームの、その信頼が面映ゆいとは思う。

経験の浅い、しかし優秀な部下を労うにはこの程度の骨折りぐらい何て事は無いのだ。

そう言ってやると、観念したのか緑の機体はおずおずとこちらの膝に頭を預けてきた。

 

「心配ない、警備はサンストームがやっている」

「そ、そうですか・・・」

「痛かったら言うんだぞ」

「はい・・・」

 

ぎゅ、と縮こまった可愛い部下にもう一度モノアイを点滅させると、レーザーウェーブはまた器具を手にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

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御留守番一家と耳掃除の巻()

二羽の口調とか完全捏造ですスミマセン・・・

アシッドたんは光波さんの事が好きで好きで仕方ないのです。

多分暫く思い出しては赤面する日々。

精神年齢で言うとジェッツ=高校生ぐらい、アシッド=小学生、サンスト=幼稚園ぐらいと妄想中。

等しく同じ機体だけど稼働年数(精神年齢)違うとか萌える。

 

2011.09.03