XXX!-2
レーザーウェーブとナイトスクリームは付き合っている。
飲みに付き合うだとかその方向ではない、所謂コイビト同士のお付き合いの方だ。
デストロン軍でも一応周知の事実である筈だが、当事者である筈のレーザーウェーブは今一つ実感が湧かなかった。
好き勝手に生きてきた事を自覚しているレーザーウェーブだが、今になって初めて傍に置きたい相手が出来た。
それはまぁ、何ともむず痒いが良いだろう。
らしくないだのレイヒーだの色々言われたが、うるせぇ黙ってろの一喝で済む。
実感が湧かないのは、恐らく相手のせいだ。
ナイトスクリームは有能だ。それは誰もが認めるだろう。
あの傍若無人な破壊大帝とて、ナイトスクリームに関してはお気に入りだと公言している様なものだ。
しかし戦いに於いて有能であっても、その他情緒面でのナイトスクリームはまるで無機物そのものだ。
苦脳の末に想いを告げたレーザーウェーブに対しても、
「そうか」
だのと素っ気無く、あまつさえ
「判った」
で終わった。
――――――――以後、一応受け入れてもらえた事を前提として過ごしているが、レーザーウェーブからアクションを起こさない限り何も起きない。
全く以て、告白する前と同じなのだ。
ナイトスクリームは何事もガルバトロン優先であり、今こうして待機している時でさえ、レーザーウェーブの隣に座る訳でもない。
正面に座って、何やら次の作戦の為のシミュレーションチェックを行っている様だった。
仮にも一応恋仲であるのだから、密着していたいとかそういった事は思わないのだろうか。
否、これではまるで自分が愛されているか不安な女々しい輩の様ではないか。
などと立ち振る舞いに似合わずぐるぐると悩むデストロン軍一の暴れん坊の姿は、通りがかったショックフリートに「何だあれキモいぞ」と陰口を叩かれる始末だった。
「・・・おい」
長考の末に、レーザーウェーブは声を掛けた。
部屋には他に誰もいない為、ナイトスクリームは自分の事だと察し面を上げる。
無表情な白い顔に、緑色のアイカメラの光は良く映える。
「何だ」
「・・・・・・・隣座れ」
決心の末に告げた一言だが、これは多大な危険を孕んでいた。
何せ、相手はナイトスクリームである。迂闊に命じようものならば、『何故だ』と真顔で問うてくる可能性がある。
最近はレーザーウェーブを憐れんだスノーストーム達があれこれ言い含めているらしいが、効果は果たして――――
「・・・」
あったらしい。
ちょこん、とでも形容しようか、ナイトスクリームは真意を問う事なくレーザーウェーブの隣に移動した。
相変わらず手にはシミュレーション用の小型パネルを手にしていているので、それもテーブルに置く様命じる。
これも、ナイトスクリームは素直に応じた。
次は何だと視線で問いかけてくるのが、少しばかり辛い。
ここで『いちゃつこうぜ』と言える程レーザーウェーブは素直ではないし、ナイトスクリームが察してくれるとは思えない。
強引に何某かの行為に持ち込む事も考えられたが、以前抱えたところ謀反と勘違いされ投げ飛ばされた事がある。
思い出すだけで悲しいその経験に、二の足を踏んでしまうレーザーウェーブだった。
悲しいかな、元々モノアイタイプのトランスフォーマーはフェイスパーツを持つタイプに比べて親愛表現に乏しい。
キスの一つもしてろよクソバカップル、とのたまったスノーストームにはオプティカルゲイザーを向けてやった。
モノアイ型は、口が無いのだ。ちょっと雰囲気が良くなった所でそんなものは出来やしない。
勿論相手が好きな所に口付けてくれればそれはキスと言って良いだろうが、朴念仁のナイトスクリームにそれを期待するのは間違っている。
そう、レーザーウェーブは認識していた。
放置状態になっているナイトスクリームから、『用がなければガルバトロン様の護衛に行く』などと言われる前に次の手を必死で考えるレーザーウェーブ。
だがいちゃつく口実が見当たらない。
そもそも恋愛対象といちゃつくのに、理由なんかいるのか。
何で俺はこんな事に悩んでいる。
また一人ぐるぐると考え込むレーザーウェーブに、ナイトスクリームがふと顔を近づけた。
「レーザーウェーブ」
「何だ」
それは全く予想外の事だった。
「おおおおおおおおおおおおまっお前っ」
動揺を隠し切れず、集音アンテナまでもが忙しなく動く。
そのぴこぴこと激しい動きをじっと見上げていたナイトスクリームは、常と同じく無表情のままだ。
経験で言えば自分の方が遥かに上だろうに、何故こうも動揺せねばならないのか。
たかが、キス如きで。
「どうかしたか」
そっくりそのまま返してやりたい問いだ。
無表情な白い顔に、レーザーウェーブは思い切り罵倒してやりたくなった。
「お前、何で今キスした?」
「嫌だったか」
常と全く変わらない表情のまま、ナイトスクリームは首を傾げる。
「っいや、じゃ、ねぇ・・・」
「そうか」
それきり、小柄な恋人は再び小型パネルを操作し始めた。
レーザーウェーブのモノアイには、その白い横顔しか見えない。
追求すべきか、大人しく僥倖を味わうべきか。
悩めるモノアイを余所に、ナイトスクリームは淡々と作業を続けていた。
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ナイスクは所謂「素直クールという奴なのでは」疑惑。
初のレザナイなのにDTくさいアニキですいません・・・