「だから申し上げましたのに、貴方は耳を貸そうともしませんでしたなぁ」

「・・・」

「コンボイが到着する前に片付けてしまうべきだとも、忠告しましたよ」

「・・・」

「全く、貴方様ともあろう御方が機を見誤ろうとは・・・これはいよいよ、破壊大帝の椅子を譲るべきでしょう」

「・・・」

 

ぐだぐだと文句を言いながらリペアを続ける部下に、メガトロンはぐっと拳を握り耐えた。

今回ばかりは、自分非があるからだ。

 

 

 

 

かわいいやつめ。

 

 

 

 

本日のエネルギー強奪計画の標的は、発電所だった。

キューブの精製は滞りなく進んでいたし、サイバトロンの斥候共を捕える事にも成功した。

そこまでは良かったのだが、捕虜をどうするかでスタースクリームと意見が割れたのだ。

口を封じるべきだというスタースクリームの意見を無視し、コンボイをおびき出す罠に用いた。

それが、いけなかった。

隙をみて逃げ出した一匹がサイバトロン側と連絡を取る事に成功し、こちらが張った罠を逆に利用された。

激しい銃撃戦の末、占領した発電所は爆発を起こした。

キューブを基地へ運んでいた別働隊はともかく、メガトロンが率いていた本隊は退却を余儀なくされた。

 

 

別働隊の指揮を取っていた為、スタースクリームは比較的損傷が少ない。

そこでメガトロンに命じられ、大帝の部屋でリペアを手伝わされていたのだ。

「大体コンボイ如き何だってんです。目的に集中してりゃよかったんですよ、それを変に見栄張ってチャチな罠なんざ仕掛けるから・・・」

「・・・」

 

よくもまぁ、普段の自分を棚に上げたものだ。

 

尚も文句を言い続けるスタースクリームにメガトロンの拳がぴくぴくと動いたが、彼にとっては幸いな事に今の破壊大帝は負傷により腕を上げる事が出来ない。

リペアが終了次第、礼にカノン砲をお見舞いしてやろうと腹に決めていると、聊か乱暴に罅の溶接をされる。

「ッ、もっと丁寧に作業せんか愚か者めが!!」

「へぇ、破壊大帝ともあろう御方がこれしきのリペアに痛がるんで?」

「・・・・」

 

声だけ聞いていれば腹立たしい事この上ない。

振り返り叩きのめしてやりたい所だが、皮肉の割にリペアの手が要求通りになった為、メガトロンは黙っていた。

よくよく思い返してみれば、リペアを命じてからずっとその調子なのだ。

普段の2ならば、メガトロンの不調を良い事にニューリーダー宣言をしてもなんら不思議ではない。

なのに文句こそ垂れながらも、大人しく命じられた通りにリペアを行っている。

 

一体、何を企んでいるつもりだろうか。

それを探る為にも、メガトロンは殊更黙って作業の手順を確認するに留めていた。

リペアが進むにつれブレインサーキットも常のメガトロンらしい、冷静な判断を取り戻しつつあった。

 

 

 

粗方の作業を終え、背部のパネルが閉じられる。

内部機構はどれもスムーズに動いているし、センサーは異物やエラーを捉えてはいない。

後は己自身で行える細かい調整を始めていると、不意にスタースクリームが背に圧し掛かってきた。

「何だ、退かんか」

「御免でさぁ」

「・・・」

憎らしい事この上ない返事なのに、引き剥がせないのは――――背にしがみついたものが、スタースクリーム本人だからだろうか。

頬をメガトロンの背に押し付けているお陰で、発声回路が共振して体内に響く。

その揺らぎに聊か心地良さを見出してしまい、メガトロンは振りほどこうとした手を止めた。

「まともに指揮も取れない御方に命令されたくないんでね。暫くこうさせて貰いますぜ」

「・・・何のつもりだ?」

「さて何でしょうな」

真意を問うものの、スタースクリームに答える様子は見られない。

「貴様と言葉遊びをしている暇は無い」

「俺だってそう暇じゃありませんぜ」

「ならば離さんか愚か者め」

「リペア手伝わせといてその言い様ですか。お優しい破壊大帝ですなぁ」

本当に、殴ってやりたい。

わなわなと震える拳を感情のまま叩きつけてやりたいものの、腰に回る手の存在を感じると不思議と萎えてしまう。

拗ねた様な態度のスタースクリームに、メガトロンは扱いかねていた。

生意気な口は普段通りだが、縋る手は離されまいとする子どもの様だ。

黙していると、またあの嫌味か愚痴かよくわからない呟きが再開された。

 

 

 

「だからあんたが前に出る必要は無かった、ってんのに」

「別働隊なんか作らんで、全員で交戦すりゃこうも損傷せずに済んだでしょうよ」

「俺はね、俺は御免ですよ」

「あんたが俺の目の届かない所で死ぬなんざ、そんなの絶対御免です」

 

 

 

 

 

それは常のスタースクリームからは全くかけ離れた―――――心配とも、とれる様なもので。

思わず振り返るものの、航空参謀の必死の妨害によってその顔を覗く事は叶わなかった。

「スタースクリーム」

「何です」

「顔を見せんか」

「御免ですね」

拒否されれば、見たくなるのは道理だろう。

漸く出た演算結果はメガトロン自身驚かずにはいられないものだが、そういうものは受け入れた方の勝ちだ。

それにメガトロンは既にリペアを終了し、常の冷静さと余裕を取り戻しているのだ。

生意気で変な矜持ばかり持ち合わせた航空参謀に、笑みさえ浮かべる事も出来る。

「命令だ、見せんか」

「お断りです」

「破壊大帝の命令だぞ」

「言ったでしょう、こんな失態を犯した方の命令は聞けません」

「ではいつまでこうしているつもりだ?」

「・・・・・・・もう少しだけ」

 

小さな声に、メガトロンは緩く笑った。

 

 

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メガ様の背中に貼りつくスタが書きたくて。

スタスクの妙な言葉遣いが好きです。敬語なんだかタメ語なんだかべらんめぇなのか・・・「じゃねーですかよ!」は吹いた。

ぐちゃぐちゃになったり、一人称が私と俺で入れ替わる所も好き。たまらんわぁ

 

11.05.03