【ミッション】
破壊大帝の唇を奪え!
【指定プレーヤー】
歴代スタースクリーム及びナイトスクリーム
【ルール】
24時間以内に己の破壊大帝の唇を奪ってください。
手段は問いません。
尚、一番早くクリアしたプレーヤーには優勝賞品として望みの品が提供されます。
※またプレーヤーには知らされていませんが、破壊大帝はこの企画をご存じです。
【CASE.1】スーパーリンク
謎の存在に召喚され戻って来たナイトスクリームは、帰還報告をした後はそのまま平常通りガルバトロンの護衛についていた。
特に会話もないのはいつもの事だが、あまりにも無音である為いい加減ガルバトロンは痺れを切らしていた。
“謎の存在”から企画内容を知らされた時は、くだらないと一笑に伏せた。
だが考えてみれば、ナイトスクリームがそんな積極的な行動を取るのは非常に珍しい。
この腹心の部下が、自らガルバトロンの唇を求めるなど―――想像するだけでも、酷く愉快だ。
故にガルバトロンは、ナイトスクリームが行動を起こすのを待っていた。
姿を消して近付くのか、否ここは正攻法で来るのか。
にやにやと笑みを隠し切れず玉座に座っていた彼を、他の部下―――例えば三馬鹿―――が見れば、気持ち悪いなどと呟いた事だろう。
しかしそんなガルバトロンの思惑とは裏腹に、ナイトスクリームは全く行動を起こそうとはしない。
このままでは制限時間を過ぎてしまうだろうに、一体何を考えているのか。
ちらちらと視線を後方の部下へ向けるものの、アイカメラが捉えるのは無機質な壁だけである。
「・・・ナイトスクリーム」
「はっ」
呼び掛けに、すぐさま目標が姿を露わした。
いかがなさいましたか、と問う姿に、ガルバトロンは暫し逡巡した後“企画”について問い質してみた。
「先程謎の存在に転送されていた、と言ったな」
「はっ」
「そこで何があった?」
「・・・・異なる世界のトランスフォーマーと遭遇しました」
報告の通りです、と静かな声が告げる。
だがその落ち着いた声音に、ガルバトロンはむず痒いものを感じていた。
聞きたいのはそんな事ではないのだ。
「そこで、何か言われなかったか」
「私の様なものは異質だと」
恐らく私のスパークがユニクロンによって再生した為でしょう、などと考察を述べるナイトスクリーム。
しかしその言葉さえ、ガルバトロンを満足させるものではなかった。
「〜〜〜斯様な事を聞いておるのではない。貴様は何か命じられなかったか、と聞いておるのだ!!」
ナイトスクリームの鈍さは時に愉快だが、今ばかりは不愉快だった。
ガルバトロンの問いに、ナイトスクリームはやや首を傾げていたが――――やがて思い当たったのだろう、あっさりと記憶を口にする。
「何か奇妙な存在に、ガルバトロン様の唇を奪えと命じられました」
「覚えておったのか」
まさか忘れていたのでは、というガルバトロンの疑念はこの一言で払拭された。
だが覚えているならば、何故実行しないのだろう。
こちらは待ち侘びていたというのに、ナイトスクリームはミッション内容を告げただけでまた一歩控えようとする。
その腕を掴み引き寄せれば、サイズの違う機体はあっさりとガルバトロンの傍へ引き寄せられた。
「では何故実行せんのだ?」
まるで楽しみにしていた自分が馬鹿の様で、ガルバトロンは苛立っていた。
他の者ならば怒気に気押され縮み上がってしまうであろう、それでもナイトスクリームはそんな素振りさえ見せずに告げた。
「ガルバトロン様のご命令ではありませんので」
「何?」
予想外の答えに、ガルバトロンは思わず目の前の小柄な機体を凝視してしまう。
「私の主君はガルバトロン様御一人です。得体の知れぬ存在の命令を聞く理由など、御座いません」
そもそも主君の玉体に触れる事など、畏れ多い事です。
真面目に言い切ったナイトスクリームに、破壊大帝は暫し瞠目の後――――――笑ってみせた。
「ガルバトロン様?」
「ククッ・・・いや・・・そうか、成る程な・・・ッククッ」
これは全く迂闊だった。成る程ナイトスクリームならば、そう考えて当然だったのだ。
どうやら自分は、ナイトスクリームからのアプローチという極めて稀なケースに浮かれていて本質を見失っていた様だ。
誰よりも忠実なこの部下ならば、そもそもそんな怪しい存在の命令など聞く筈が無いのに。
「与えられる褒美にも興味を示さんか」
「如何なるものであろうと、ガルバトロン様に仕える事以上の褒美などありません」
心なしか、見上げるナイトスクリームのアイカメラがこちらを責めている様に見えガルバトロンは更に笑った。
恐らく他の者なら見えるまい、僅かな僅かな感情の一片。
ガルバトロンにはまるで不義を疑われ拗ねている様な、そんな顔に見えた。
「ナイトスクリーム」
「はっ」
与えた名を呼ぶだけで、それはすぐに消えてしまった。
それを少し残念に思いながら、破壊大帝は正面から部下へ命じた。
「許す。儂から奪ってみせよ」
本音としては命令抜きで行動して欲しかったが、生憎ナイトスクリームは絶対的忠義の持ち主だ。そうもいくまい。
「・・・それは」
「儂の命令が聞けんのか?」
意地悪く問い返してみれば、すぐに否定の声が返ってくる。
「左様な事は断じて御座いません」
「では再度命ずる。手段は構うな、礼義など捨てろ。よいな」
「・・・はっ」
ガルバトロンの戯れをどう受け止めたのか――――恐らく何も疑問を抱く事も無く、だろう。
忠僕は言われた通り『礼義を捨て』、破壊大帝の肘掛けに手をつき、フェイスパーツを互いのアイカメラの光が反射する程近くへと寄せた。
ナイトスクリームの明るい緑色のアイカメラには、主君の顔だけが映る。
何者にも妨げる事の出来ない、真っ直ぐな視線。それが堪らなく心地良い。
「・・・」
機械生命体に似合いの、冷たい唇がそっとガルバトロンのそれに重ねられた。
触れるだけの擽ったい接触に、破壊大帝は僅かに目を細めた。
『プレーヤー:ナイトスクリーム
記録時間:13時間37分04秒』
****
ガルバトロン様は乙女的。
【CASE2.アニメイテッド】
謎の存在に召喚され、戻ったのはつい今し方。
出迎えもしないクローン達に普段ならば抗議の一つも入れる所だが、生憎今のスタースクリームにはどうでも良い事だった。
褒美が出る、との話だ。
そして手段を問わないとも言った。
ならば話は至極簡単だ。
「そんじゃあこのイケメンがメガトロンをぶっ倒して、ついでにオーダーを実行してもいいって事だよなぁ・・・」
にんまり。
実に宜しくない笑みを浮かべていたスタースクリームだったが、やがて堪え切れなくなったのだろう、高らかに笑い始めた。
「クククククッ、待ってろよぉメガトロン!!!イケメンの逆襲だァアアアア!!!!」
再度トランスフォームすると、自称宇宙一のイケメンは飛び立った。
目標は勿論地球、そこで暗躍する破壊大帝の抹殺である。
がしかし、そこは何と言うか所詮スタースクリームである。
最早ただの突撃に近い“奇襲”は、案の定メガトロンによってあっさり叩き潰された。
「ふん・・・・愚か者めが」
煙を上げて床に倒れる機体を無造作に掴むと、減らず口が堰を切った様に捲し立てる。
「あのなぁイケメンに何たる仕打ちしてくれるんだよ何考えてんだぼろぼろじゃんかよ!!!」
「黙れ」
頭部パーツを掴む手に僅かに力を込めると、ぴたりと文句が止まる。
恐る恐る、といった様子でこちらを見上げる反逆者を、メガトロンはさもつまらなさげに眺めた。
「貴様の奇襲如き、見抜けぬ儂ではない」
―――――“密告”があった事を、わざわざ言うつもりなど無い。
チクショー!!とばたつくスタースクリームを今一度放り捨てると、メガトロンは躊躇い無くカノン砲を発射した。
「・・・スタースクリーム死んだッツ?」
「残念ながら不死身デース」
カノン砲は三回ほど轟音を轟かせたが、生憎この裏切り者はひどくしぶとい。
「捨ててこい」
「「了解」」
大小の部下が死体を片付けている間に、メガトロンは再び己の玉座へと戻る。
戯れに置いた地球仕様の時計は、もうすぐ例の存在が言い置いた制限時間まで、どれ程残っているかを教えてくれる。
さて、どうしてくれようか。
ろくでなしが生き返るまでの時間を差し引いても、まだ随分と時間が残っている。
どちらにせよ向こうのミッションは成功させてやらないつもりだが、くだらない攻防を繰り広げるのとさっさと閨に投げ込むのとでは、過ごし方が大分異なる。
次の襲撃後には、破壊大帝御自ら奴を『捨てに』いってやるとするか。
無論、捨てた後にどうするかは別として。
散々楽しんだ後に、制限時間を過ぎた事を教えてから噛みついてやっても良い。
その時奴は一体どんな顔をするだろうか。悔しがるか、嘆くか、はたまた逆ギレするか。
「ふむ・・・楽しみにしておるぞ?スタースクリーム」
自分も大概ろくでなしである事は、重々承知しているメガトロンであった。
『プレーヤー:TFAスタースクリーム
タイムアップにつき記録なし。未達成とする』
****
TFAメガ様は釣った魚にえさをやらない。
【CASE3.実写】
次々と転送されていった別次元の存在を思い出しながら、スタースクリームは小さく嘆息した。
どうやら異なる世界の自分は皆、若さに任せ逸っている様に見受けられた。
スタースクリームにとって、“スタースクリーム”とは自分以外の何物でもない。
平行世界の概念について否定するつもりは無いが、ああも――――間抜けとは。
約一名毛色の違う輩はいたが、やはり自分と認識するには無理がある。
ミッションの内容とて、到底許容できるものではない。
上から命令される事を厭うスタースクリームである。余程の見返りが無ければ、馬鹿げた振る舞いは御免だ。
「・・・・」
『転送』される前と同じ場所に戻された為、今の自分がいるのはプラントルームだ。
壁一面に安置された卵たちは皆、淡い青の光を放ちながらじっと孵る時を待っている。
そのうちの一つをなぞれば、中にいる雛が微かに動いた。
あの時、他の者は皆さっさと己の世界に帰ってしまった。
ただ一機残されたスタースクリームは、このとんでもないミッション命じた存在に対し密かに訊ねてみた。
見返りは何だ、と。
今のメガトロンに近付く事は、スタースクリームにとってなるべく避けたかったし、そもそも訳の判らない輩に突如命令される事など御免だった。
だが、この“存在”はもしかしたらスタースクリームの現状を知っているのではないだろうか。
そう訝り訊ねたのだ。
相手は―――――嗤った。
『卵の育成に必要なエネルゴンの供給を約束しよう』
『レコードが速ければ速い程良い』
『他の“スタースクリーム”がどれ程費やすか判らないが、期待している』
思い出すだけでも忌々しいが、向こうの提示してきた条件は今のスタースクリームにとって確かに魅力的だ。
エネルゴン不足の現状を憂う今、得体の知れない存在とはいえ現物が手に入るならば――――・・・
「・・・」
卵の表面を撫でていた手が、ぎゅう、と握りしめられる。
ディセプティコンらしい鉤爪は今でこそ傷一つ無いが、数え切れぬ程の折檻を受けてきた記憶はしっかり残っている。
理不尽な暴力は以前こそ反逆の糧になったが、卵を抱えた今はそんな事に構っていられない。
ただ、残された感情はひとつだ。
あの暴虐の主に近寄る事が、恐ろしいのだ。
そんな事は誰にも言えなかった。
狡猾で残忍な、欺瞞の民そのものと評される自分が、主を怖がっているなどと。
壁に並ぶ無数の卵達の事を考えれば、自分の抱えている恐れなど捨て去るべきだ。
それでも、数百万年をかけて刻み込まれたメガトロンへの恐怖は簡単に消えるものではない。
得体の知れぬ存在の甘言に惑わされたなどと知れたら、今度こそスパークを散らされるかもしれない。
まだあの得体の知れない存在を襲い、エネルゴンを奪う手段を考えた方が得策だ。
スタースクリームの感情を感じてか、目の前のみならず傍の卵達までもがこぽこぽと音を立てて動いた。
「・・・貴様らにまで嗤われるか」
自嘲の笑みを一つ浮かべると、スタースクリームは静かに踵を返した。
* * *
決意は、固めたつもりだった。
破壊大帝の部屋はいつもと同じ様に薄暗く、訪れる度に奇妙な程息苦しさを覚える。
ネメシスの船内は何処も寒々としているのに、この部屋に来た時だけは体内冷却水の循環率が異常に上昇するのが原因だろう。
眼下の青い星で敗戦して以来、メガトロンの傷は癒えない。
それもこれも、圧倒的にエネルゴンが不足している為だ。
主のアイセンサーの赤い輝きは、昔の様に苛烈な光ではない。
置き火の様に暗く沸々と瞬いており、それがスタースクリームには一層恐ろしかった。
まるでいつ爆発するか判らない爆弾の様な、そんな主だった。
いつもの様に己の玉座に腰掛けた男は、スタースクリームの来訪に胡乱な眼を向ける。
そのフェイスパーツに、鬱蒼とした笑みが浮かんでいることに気付かぬふりをしながら、スタースクリームは恭しく膝を折ってみせる。
「スタースクリーム、何用だ」
「・・・申し上げます、我が主」
震えは、拳を握る事で誤魔化した。
そうして尤もらしい報告を並べ立てて主の機嫌を窺ってみたものの、訪れた時は聊か上機嫌だった筈のメガトロンは、スタースクリームが喋れば喋る程機嫌を損ねて行く様だった。
―――右のアイセンサーだけを点滅させるのは、不機嫌のサインだ。
あれを見たが最後、次に待っているのは暴力に他ならない。
最早条件反射の様に身を固めてしまうスタースクリームだが、すぃと伸ばされた掌を見てしまえば一層体内モーターが忙しなく動く。
あれは、近寄る様命じているのだ。
拳が振り下ろされるか、それとも蹴り上げられるか踏み躙られるか。
与えられる責め苦に予想をつけながら、さりとて抗う事も出来ず――――スタースクリームは、ゆっくりと主の前へと進み出た。
玉座に座るメガトロンに再び頭を垂れるべく膝を折ろうとするが、突如主が腕を掴んだ為にバランスを崩し、その身に倒れ込んでしまう。
「ッも、申し訳ありません・・・!!」
慌てて起き上がろうとするが、それよりも早く頤を捕えられ、ひゅ、と息が止まった。
「何を考えている?スタースクリーム」
「何の、ことで・・・・・・ッ!!」
己のものよりずっと鋭い鉤爪が、頸部を優しく撫でる。
顔が、ひどく近かった。
―――――――――今なら、“任務”を完遂出来るかもしれない。
ブレインに掠めた考えに、スタースクリームのアイセンサーが戦慄く。
あと少し距離を詰めれば出来ない事ではないが、そんな大それた考えはメガトロンの赤いアイセンサーを見るや霧散してしまう。
かちかちと唇を震わせるスタースクリームに、ふとメガトロンは愉快そうに嗤った。
「俺に隠し事など許されると思うな」
昏く光っていた赤いアイセンサーが、燃え上がる様に爛々と輝いている。
獲物を見つけた肉食獣さながらの輝きに、スタースクリームは微かに呻いた。
処罰が下るのだ。度重なる経験から、もう判り切っていた事だった。
握られた腕はぎりぎりと軋み音を立ててひしゃげ、激痛が神経系統を一挙に犯す。
くぐもった悲鳴を上げるスタースクリームを、メガトロンは楽しげに見つめている。
「所詮戯れだ。付き合ってやろう」
その言葉が何を意味するのか、暫くの間理解出来なかった。
何故ならスタースクリームは、その“暫くの間”、ブレインサーキットをまともに動かす余裕が無かったからだ。
ただ覚えていたのは、メガトロンが噛みつく勢いで唇に触れ侵入してきた事。それだけだった。
『プレーヤー:実写スタースクリーム
記録時間:3時間19分55秒』
****
実写メガ様の愛とは暴力そのもの。
多分リベンジ後ぐらいなのでお利口スタスク。
しかし卵と天秤にかけられたメガ様はご機嫌よろしくないと思うよ!!理不尽。
【CASE4.初代】
「俺様の要求は到ってシンプルだ。この俺をデストロンのニューリーダーにしろ!」
そう主張しておいたのだから、多分見返りはその通りになるだろう。
嫌なミッションだが、一度の事だ。
問題は、如何にメガトロンを出し抜くかである。
戦闘中にうっかり負傷させるのも良いが、周りの目が面倒だ。
作戦会議中も同じ事だ。サウンドウェーブが控えている。
ならば狙うは部屋にいる時――――それもスリープモードが楽だ。
時間を確認し、スタースクリームはくつくつと笑った。
タイミングの良い事に、この時間はメガトロンがスリープモードに入っている時間だ。
基地内がしんと静まり返っているのも、その為である。
全く悪のデストロン軍団ともあろうものが、規則正しく良い子の生活を送りすぎだろうに。
「精々安らかに眠ってな、次に起きた時は俺がニューリーダーだ」
抜き足差し足忍び足。
こそこそと破壊大帝の私室に向かうスタースクリームの姿は、幸いな事に誰にも見られていなかった。
* * *
部屋のロックを解除する事など、スタースクリームにとっては容易い事だった。
破壊大帝ともあろう者が、いい加減無防備すぎだ。
メガトロンの部屋には何度か暗殺を企てに訪れた事があるが、悉く失敗に終わった為最近はあまり近寄っていない。
中央の寝台に横たわる白銀の機体に、スタースクリームはちらりと目を向けた。
カノン砲を装着していないメガトロンの姿は、久々に見た。
偉そうに踏ん反り返っているのではない、ただ静かにスリープモードに入っている破壊大帝。
「・・・」
こんなに間近でメガトロンを観察したのは、いつ以来だろうか。
相手がオフラインになっている事を確かめ、そっと寝台に腰掛けてみる。
メガトロンは、起きない。
次いでスタースクリームは、恐る恐る頭部パーツの両脇に手をつき、破壊大帝の上に覆い被さってみた。
やはり起きる気配は、無い。
あとは“ミッション”を遂行するだけだ。とても簡単な、たった一瞬で終わる。
しかしここに来てスタースクリームは、躊躇っていた。
破壊大帝の寝込みを襲うと決めたのは自分の筈なのに、今の状況が酷く落ち着かないのだ。
口内オイルを呑みこむ音さえ、やけに大きく感じる。聴覚センサーに異常は見受けられないのに、何か、何かがおかしい。
まるで自分が、『メガトロンを好き』で、『キスしたいが為』に、『寝込みを襲っている』様な。
「〜〜〜〜〜〜ッ」
馬鹿馬鹿しい。
ブレインサーキットが弾き出した馬鹿な考えを黙殺すると、スタースクリームは固くアイカメラを閉じた。
そうして、速やかに己のミッションを実行した。
一瞬ではあるが、確かに唇には感触があった。――――ミッションは、完了だ。
固く閉じていたアイカメラを開くスタースクリームであったが、目の前の光景に暫し唖然とした。
今し方までスリープモードに入っていた筈の破壊大帝のアイカメラに、しっかりと赤い光が灯っていたからだ。
「っめ、メガトロン様・・・・!?」
「全くこの愚か者めが!!」
首を鷲掴みにされ、スタースクリームのアイカメラが激しく明滅した。
「起きてらしたんで!!?」
「貴様の考えなどお見通しだこの愚か者めが!!」
「二度も言うこた無えでしょうが!!!」
「ではこの状況を何と説明するのだ?!」
成る程メガトロンの言う通りだ。
だがしかしいくら向こうが喚いても、もう遅い。
「どうせ間もなくデストロンのニューリーダーはこの俺だ!!精々吠えるがいいや!!」
勝ち誇った笑みを浮かべるスタースクリームに、メガトロンが不敵な笑みを浮かべる。
「――――それは何やら得体の知れぬ存在が持ちかけた賭け事の事か?」
どうやら、こちらのアクションは向こうに筒抜けだったらしい。
それでも自分はミッションを完遂させた。他の世界の連中は判らないが、勝つのは自分だとスタースクリームは信じ切っていた。
「へぇ、ご存じでしたか。流石は破壊大帝、情報通ですなぁ」
「・・・・貴様がそこまで愚か者だとは思わなんだぞスタースクリーム。相手が約束を違えるリスクを何故考えんのだ」
「・・・ッ」
言われてみれば、確かにその通りだった。
己の正体さえ明かさぬ輩が、何故約束を守るなどと信じたのか。
押し黙ってしまったスタースクリームに、メガトロンは深く嘆息した。
「全くこのスタースクリームめが・・・」
「っで、でも俺は言われた通りにしたんだ!!!あんた、あんたにっ・・・・・・・・キスまで、して・・・っ」
「生憎貴様が口付けて来たのは儂の瞼だがな」
「へっ」
憎らしいばかりの表情が、間抜けなものへと変わる。
結局この愚か者は自分自身のミスでチャンスを逃したのだ。愚か者と言わず何と言おう。
最早それ以上の叱責の言葉も思い浮かばず、メガトロンは今一度溜息を零し部下を解放した。
どべちゃ、と音を立てて寝台の脇に落ちたスタースクリームだが、すぐに起き上がるや部屋を飛び出して行った。
「畜生覚えてやがれッ!!次こそ俺がニューリーダーになってやる!!!」
全く、騒がしいこのこの上ない。
口付けてきた時はまだ可愛気があったが、全く以て台無しである。
例のふざけた宣言抜きであったならば――――それなりに愛でてやってもよかったというのに。
じゃじゃ馬の部下に幾度目かも判らない溜息をつくと、メガトロンはゆっくりと起き上がった。
『プレーヤー:初代スタースクリーム
ミッションの内容に沿わない為記録なし。未達成とする』
****
ちゃっかりしている初代メガ様。
ちなみに目(瞼)へのキスは憧憬を表すらしいですよ。
【CASE5. M伝】
ずっと心配していたのだろう、帰ってきてからというものマイクロンが傍から離れない。
首の辺りにしがみつくグリッドを宥めつつ、スタースクリームは物思いに耽っていた。
手段を問わずメガトロンの唇を奪え、と言っていた。
そんな命令を聞く義理は一切無いが、スタースクリームにとっては一つ、心惹かれるものがあった。
“理由はどうであれ、メガトロンと一戦交えられるのではないか?”
日頃スタースクリームを認めてくれないメガトロンに、一矢報いるチャンスだ。
叩き伏せられればそれで良いのだから、後はどうでも良い。
―――全く、自分も大概戦闘狂という事だろうか。
苦笑し歩き出すと、肩に乗った相棒が抗議の声を上げていた。
「メガトロン!!!」
ウイングブレードを構え現れた部下の姿に、玉座に腰掛けていた破壊大帝が喜色を隠そうともせず立ち上がる。
「来おったかスタースクリーム、この愚か者めが!!」
一体何事かと双方を見遣るアイアンハイドを余所に、スタースクリームは中空に飛び上がって斬りかかった。
「覚悟!!」
「儂を倒せると思うてか!!」
激しい剣戟が始まり、広間はあっという間に戦闘の場と化した。
状況が判らぬアイアンハイドだけは、止めた方がいいのか判断しかね狼狽するばかりだった。
「あああああの、メガトロン様・・・・!?」
「ふはははははは!!!」
「スタースクリーム・・・?」
「喰らえぇえええッ!!!」
――――――――何が何だかさっぱりである。
しかしよくよく観察してみれば、真剣勝負でこそあるものの殺意は感じられない。
単にじゃれ合っているだけの様だ。少なくとも、メガトロンにとっては。
ならば口出しするのも無駄だと踵を返したアイアンハイドを、止める者は誰もいなかった。
『プレーヤー:M伝スタースクリーム
タイムアップにつき記録なし。未達成とする』
***
M伝メガ様は面白がって「奪いたければ儂を倒してみよ!!」なタイプ。
結局制限時間内に達成出来ずに終わる。
M伝メガスタ親子もえ。
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という訳で、拍手御礼【破壊大帝の唇を奪え!】5種でした。
ぽちっと押して頂いた皆さまに感謝!