暗黙の了解事項というのもは、大体どんな組織にもあるものだ。

それは先輩から後輩に脈々と受け継がれていくものであり、組織の構成員が全身金属の機械生命体であっても全く同じ事だった。

ディセプティコンの量産型兵士・通称ビーコン。

一見すると個体差等見受けられないが、同じであるが故に、彼らの結束力は強かった。

 

 

 

ラブロマ始めました。

 

 

 

 

工場から新しく生産された、所謂新兵は厳しい指導の下各地のディセプティコン基地へ配備される。

その中で一握りの者達だけが、最前線――――つまり精鋭部隊としてネメシスに配属される。

それはビーコン達にとって、憧れだ。

期待と不安にスパークを高鳴らせやってきたルーキー達は、まず同じ顔をした古参の先輩方によって基地内を案内される。

鬱蒼としたネメシス艦に於いて、この時ばかりは極僅かながらも活気があるものだ。

 

「―――以上が俺達ビーコンの立ち入りを許されたエリアだ。深部は参謀方の部屋となっているから、絶対に近付く事の無い様に」

 

既に何千回、新人らに説明をしただろうか。

虚しく使い捨てにされる事も数多いながら、古参のビーコンは苦笑せずにはいられなかった。

何故なら―――

 

「質問、宜しいでしょうか」

 

手前にいた一機が、周りから囃し立てられ小突かれながらも躊躇いなく手を上げる。

その内容に予測がつきながらも、古参ビーコンは発言を許可してやった。

 

「何だ」

「さっ、参謀方にお目もじ適う時はあるのでしょうか」

「・・・・」

 

この艦が航行を始め、新兵の受け入れを開始してからというもの、違う問いが出た事は一度として無かった。

否、自分も遥か昔はあちら側だったのだ。

訓練プログラムの中で、幹部のパーソナルデータは必修科目にある。

仕えるべき大帝と、その幹部方。無条件で従う様に自分達は出来ているのだ。

自分達の様な量産型と違い、この広い宇宙にただ一機しか存在しない彼らに憧れるなと言う方が無理だろう。

だが、これだけは言っておかねばならない。

 

「これから嫌でも顔を合わせる機会はあるだろう。だが新人共、一つ言っておくぞ。・・・航空参謀殿には、惚れるな」

「理解しています、サー!」

 

威勢の良い返事。これも古参には予測済みだ。

何せ初めての新兵隊を受け入れた時から、この一連のやりとりは続いているのだ。

生産されてから配属が決まるまで、ビーコン達は皆訓練プログラムのみをこなす日々だ。

僅かな娯楽といえば、長い停戦状態の間にとある幹部が手慰みに作った情報チャンネルぐらいのものである。

内容は――――

 

「自分達は、情報参謀殿の恋が成就する事のみを願っております!!」

「声がでかいぞ新人」

 

万が一、長く不在である破壊大帝にこの発言を聞かれようものなら叱責どころでは済まない。古参共々スクラップになるのが確実だろう。

だが同型にしか判らない、赤く紅潮させたフェイスパーツの主張する事は判らんでもない、と古参のビーコンは思った。

そう、ビーコン達が過酷なネメシス配属を希望するのも全てはここにある。

ディセプティコンの歴史が始まって以来、ビーコン達はたった一つの物語を追い続けていた。

それは即ち情報参謀がノンフィクションで綴る、同僚たる航空参謀への小さな恋の行方だ。

困った事にこれはノンフィクションであり、今もひたむきに続けられている。

娯楽の少ないディセプティコンに於いては皆がこのリアルタイムドラマを追い掛けており、その続きが見たいが為に死に物狂いで働く。

今の所数千年、情報参謀殿が告白する動きも無ければ、航空参謀が気付く事も無い。

全くの、平行線を辿っているのだ。

有機生命体ならばとうに世代交代を繰り返し飽きているだろうが、幸いにも自分達は機械生命体であり、時間の流れは然程重要ではない。

奥手な情報参謀と、他者からの評価を気にする癖に好意には鈍感な航空参謀の間にいつフラグが立つのか。

皆エネルギー補給の時等に毎回見悶えながら鑑賞しているのだ。

さしずめ今の新人達にとっては、参謀方は画面の向こうの人物だろう。

それが長らく配下にあるうちに、益々じれったくやきもきする様になる。

さて、次の新人配属期までに情報参謀殿の片恋は進展するだろうか。

多分また、何もないままなのだろう。

予測しつつも、一縷の望みを捨てられない程には末期だ、と古参のビーコンは苦笑した。

だがエンディングを迎えるまで、兄弟達はどんな仕打ちを受けても尽くすだろう。自分とて、同じ気持ちだ。

娯楽と言いつつも、結局感情移入し応援せずにはいられない。

 

「ネメシス配属ビーコン暗黙の了解はもう判るな?」

参謀方の恋は、こっそり影から見守る”!!以上です!!

「合格だ」

 

 

 

こうして、ビーコン部隊は続々と音波スタ信者を増やしているのであった。

 

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プライム初のお話がこれですいません。

ビーコン大好きです。

 

2012.11.09