我らが破壊大帝が、戻ってきた。
不在の間自由気ままに過ごして来た航空参謀殿は酷く慌てていたが、それ以外の面々は皆いつも通りだった。
ただ上で指揮するものが、違うだけ。それだけの話なのだ。
――――――――否、気がかりが一つだけあった。
「もしメガトロン様が軍内恋愛を禁じておられたら、あのドラマはどうなるんだ?」
機体によっては、既に生産された時からあのドラマが存在している者がいるのだ。
そしてそのストーリーに、破壊大帝の影は一切無かった。
一体の新人の呟きは、場所がエネルギー補給ラウンジだった所為か瞬く間に他の新人達の話題を攫った。
ラブロマ始めました。2
「打ち切りなんて俺は嫌だ、何の為にネメシス配属を志願したのか判らないじゃないか」
「俺だってそうだ」
「俺も」
「・・・待てよ、ドラマに新しい人物が登場するって事は別の展開も考えられるんじゃないのか」
別の席に座っていたビーコンの言葉に、今度はラウンジの一同がそちらに視線を集めた。
「どういう事だ」
「三人目の登場は恋仇って言うじゃないか」
「恋仇・・・!?」
「三角関係って奴か!!!」
ざわつきが、益々大きくなった。
マンネリ化している今、確かにそれは面白い展開だ。
相手はかの破壊大帝メガトロン、あの二人の絶対的上司だ。
「もし、もし御方が夜伽をお命じになったとしたらスタースクリーム様は従うのか・・・・?」
オイル不足でも起こしたのか、一機がくらりとよろける。
能面じみたフェイスパーツだが、同型の兄弟達は皆彼の鼻パーツからオイルが滴っているのがはっきりと判った。
「このドラマ、アダルト路線も可能だったのか・・・・」
「どうしよう、俺そういうのは求めてないのに」
「俺は歓迎だけどな。昼ドラ結構好きだ」
「俺も」
暫くの間、ラウンジは例のドラマの展開を予想する賑やかな論争に包まれていた。
それを打ち切ったのは、地上部隊との連絡を終え戻ってきた古参のビーコン部隊だ。
一瞥し何が話題になっているのか理解した彼らは、ベテランらしい態度のまま新人たちを見下ろしフッと笑った。
「どうやらルーキー共は破壊大帝の動向を量りかねている様だな」
「御方は軍内の恋愛に寛容だ。安心していいぞ」
一先ず、打ち切りの危険性は回避された。
先輩ビーコンの言葉に、あちらこちらで安堵の溜息が聞こえた。
だがまだ不安な者がいる様で、彼らは顔を見合わせつつもチラチラと先輩方の次の言葉を待った。
第二の不安は、メガトロンの立ち位置だ。
『寛容』なだけでは、情報参謀殿の恋路の障害に成り得る可能性もあるのだから。
そんな新人を見遣り、先輩ビーコンは同型にしか判らない笑みを浮かべ頷いた。
「御方は有能な部下の恋を昔から応援しているとも」
「古い付き合いらしいからな、情報参謀殿とは」
第二の安堵は、歓声で迎えられた。
「我々の考えでは、御方の帰還によって何某かの進展があると思う」
「本当でありますか!!?」
未だ手を繋ぐシーンさえ無いこのドラマに、破壊大帝はどんなテコ入れをしてくれるのだろうか。
何やら過激な想像をしたらしい何体かがまたバタバタとオイルを垂れ流し床で身悶えているが、それを無視しながら、ベテランビーコンが唸った。
「今御方はお二人を伴って地上の採掘現場指揮に当たっておられる。そこから何か期待しようではないか」
「少なくともメガトロン様のご帰還によって、航空参謀殿が情報参謀殿に愚痴を零す回数が格段に増えた」
それはつまり、二人きりになるやスタースクリームの方からサウンドウェーブに話しかける事が増えた、という事だ。
急ぎ自前のハード・ディスクの録画容量を確認する新人達に、ベテランはまた笑った。
この先は自分たちも、こまめに容量確認をしなければならないだろう。
願わくば、大きなプラスの進展を。
期待を胸に、ビーコン達は今日も真剣に業務に取り掛かるのであった。
*****************************************************************続*****
何を隠そう、こういうアホな小話が大好きです。
2012.11.13