破壊大帝の帰還に伴い、ここ数百年緩やかだったネメシス艦内の空気は俄かに慌ただしくなった。

ディセプティコン本来の目的である、宇宙の掌握とオートボットの殲滅――――それらを実行に移すべく、メガトロンは実に手際よく作戦を立案、実行していく。

絶対的主の存在はスタースクリームにとって恐怖そのものだろうが、不変に飽いていたビーコンたちには歓迎された。

彼の存在は、例のドラマの進行にも大きく貢献されているのだ。

 

 

ラブロマ始めました。3

 

 

 

 

すっかりビーコン達の雑談場と化しているラウンジでは、今日放送されたドラマの感想で持ちきりだった。

「俺今日の分あやうく見逃す所だった。地上組から採掘分引き上げてる最中だったからさ」

「不定期放送の辛い所だな・・・・でも今日は重要なシーンだったから、見逃すわけにはいかないな」

しみじみと呟く古参の言葉に、一同が深く頷く。

本来の目的の方は、オートボットの介入もあり失敗してしまったがそれはこの際置いておこう。

大事なのは、あのマンネリ化していたドラマに大きな進展があった事なのだから。

それは長年このドラマを見続けている自分達が、初期に一度は思った事を破壊大帝がずばりと口にした事だった。

 

 

採掘計画の進行をチェックさせる為に、メガトロンはサウンドウェーブをネメシスに戻した。

それまでスタースクリームの愚痴を聞き、僅かな接触に歓喜していた視聴者としてはフラグを折られた事にショックを受けた。

だがそれは、遅々として進まない恋を許容していた自分達のだらしない姿を叱られたのかもしれない。

 

サウンドウェーブが艦に戻り通信チャンネルを開くや、破壊大帝は有能な部下に己の得た情報を与え、再認識させた。

「サウンドウェーブ、貴様我が不在の間何ひとつ行動を起こさなかったのだな?」

「・・・・『その通り!』」

場違いな航空参謀の音声が再生され、それは場の空気を一層悪いものにさせた。

メガトロンはその答えを予測していた様だが、想定通りの部下の報告に少し眉を吊り上げた。

「我が宇宙に出る前に言った言葉を、貴様覚えているか」

「・・・・・・・」

 

ここで、視聴していたビーコン達がざわついた。

そんな伏線を一体何処で張ってあったのだろうか。

古参のビーコンが急ぎログを遡るが、情報管理型でもない一介のビーコンにとってそう早く探り当てられる筈も無い。

伏線を見つける前に、破壊大帝は爆弾を投下した。

 

「言った筈だ。大事に眺めているだけで手に入るものなど何ひとつ無いと。手を伸ばす事にさえ怯える様では貴様などあの愚か者以下だ」

「・・・・・・・・・・」

押し黙る情報参謀に、メガトロンは更に苛立った様だ。

もしこの通信にスタースクリームも加わっていたならば、破壊大帝の表情を見ただけで卒倒していただろう。

「生温い関係のままで良いのならば勝手にするがいい。だがいつか、お前の宝物は横からかっ攫われるぞ」

「・・・・・『お待ちください』『メガトロン様!!』」

サウンドウェーブの呼び掛けも虚しく、通信はそこで切られた。

 

そしてビーコン達の視聴チャンネルも、そこで憎らしい“つづくの文字が画面を遮ったのであった。

皆が同じチャンネルを視聴し、同じ   タイミングで次回へと持ち越された。

所謂盛り上がりが頂点に達した所で、終わってしまったのだ。

このやり場も無ければ筆舌にも尽くせぬ感情に、ビーコン一同が悶えた。

ある者は膝をつき床を叩き、またある者はその場で転がり、またある者は声にならない雄たけびを上げた。

そう、彼らにとってサウンドウェーブが責められる事は全くの予想外だったのだ。

大抵は好意を寄せられている事に全く気がつかないスタースクリームにやきもきするばかりだったが、メガトロンは不在の間の進展の無さに、主役を非難した。

危機感を煽る事は、とても重要だった。

「思い出すだけで駄目だ・・・・俺今日は眠れないかもしれない」

天井を仰ぐビーコンに、隣の同型が肩を叩いて頷く。

「俺だって同じ気持ちだ。流石メガトロン様、俺達が予想出来ない事を平然とやってくれるッ!」

「そこに痺れるなぁ」

憧れの主君に皆がうんうんと頷き、その男っぷりに惚れ惚れしていた。

そこへ、比較的冷静さを保っていた古参ビーコンの一人が呟く。

「しかし・・・いもしない恋敵にサウンドウェーブ様が危機感を抱くだろうか?」

疑問に、皆の声がぴたりと止む。

静寂を取り戻したりと忙しいラウンジに、このビーコンの声は良く響いた。

「最初俺達はメガトロン様が三角関係を担うんじゃ、って危惧しただろう?しかし御方はその役目ではないらしい」

「何が言いたいんだ」

「俺も先が読める訳じゃない、勘弁してくれ」

「サウンドウェーブ様の恋敵、か・・・・・・・・誰か心当たりあるか?」

比較的若いビーコンが兄弟機たちに訊ねるが、等しい情報しか持たない彼らにとってはお互い顔を見合わせ首を振るのが精いっぱいだった。

「俺達ビーコンは、まぁノーカウントだろうな」

「ちょっと悲しいけどな」

悲しいが、自覚はある。何せ幹部連中が自分達ビーコンの個体を見分けられているかというと、怪しいところがある。

彼らにとってビーコンとは個体ではなく、駒なのだ。

床掃除をしていてスタースクリームを滑らせラッキーハプニングを得た者と、作戦の失敗を責められビンタされる者は見分けられていない。

「しかし、今艦にいる幹部方はそれこそ情報参謀殿と航空参謀、そして御方だけだろう」

疑問を掲げたビーコンの向かいに座っていた個体が、エネルゴンを啜りながら呟く。

「まさかオートボット側に候補が?」

「メガトロン様しか知り得ぬ第三者とか!」

銘々が勝手な事を言っては、その案に大きな動揺の声が上がる。

 

 

こうして今日も、ネメシス艦内ラウンジではドラマの内容について熱く盛り上がっているのであった。

 

 

 

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タイトル変えました。