その頃、スタースクリームは悩んでいた。
長らく不在の主君が戻ってきてしまった事で、自分は再びこの軍団の2に成り下がった。
今となっては、あの退屈な日々が恋しくて仕方が無い。
暇を持て余し刺激を求めていた事は事実だが、いやこんな形の刺激は全く望んでいなかった。
日がな一日、低能な獣の様に働かされた揚句労いはこれっぽっちも無い。
エネルギーさえ摂取していれば半永久的に動き続けられる機械の体とはいえ、疲労が溜まれば勿論不具合が生じる。
それを判っていながら、主君と同僚もとい情報参謀はこちらに一切の業務を押し付け毎日何やら“内緒話”をしている。
一体何だ、何の話だ。仲間はずれかコンチクショウ。
心なしかビーコン共の動きまで鈍い気がして、スタースクリームは深く唸った。
――――――水面下で動きを見せる“企画”に、一切気付く事無く。
ラブロマ始めました。4
今日のネメシス艦内のラウンジは、昨日とは打って変わって葬式めいた静寂に包まれていた。
この一喜一憂も、例のドラマが原因だ。
何せ今日は怒涛の展開過ぎたのである。
最強の軍隊なる、テラーコン軍団の召喚。それは長きにわたるオートボットとの戦いに終止符を打つのに充分な計画だった。
――――――表向きは、そうなっていた。
しかしその裏でひっそりと進められていたのは、破壊大帝プロデユースによるドッキリ企画だ。
要は例の両参謀をテラーコンによる“お化け屋敷”にご招待し、意識を変えさせる・・・とかそういう些細な企画である。
勿論ディセプティコンにとって重要な企画は“表”の方だが、ささやかな楽しみが備わっている以上、ビーコンたちもいつになく良い働きを見せた。
“表”さえ終われば、次に待っているのはドッキリ企画にして甘い展開―――――そう、皆が確信していたのだ。
怖がりな航空参謀はきっと予想通りに、情報参謀にしがみつくだろう。
そしてサウンドウェーブは、テラーコンの仕込みになど全く動揺しないだろう。怖がる同僚を宥め、連れ歩く事など簡単にこなしてみせる筈だ。
それを経てスタースクリームが、情報参謀に好意を抱いたならば。
そこから先は全く未知の世界だ。期待するななどと言われても無理な話だ。
更にメガトロンは、スタースクリームにも予め伏線を張っていた。
「この作戦が終われば、貴様にも劇的な変化が訪れるであろうよ」
と。
無論ドラマの展開を望む者達にとって、それはサウンドウェーブとの関係の変化に他ならない。
当人は何の事か判らない様子だったが、その表情は長年じれったい思いをし続けたビーコン達が歓喜するに充分なものだった。
いずれあの顔は、サウンドウェーブによって頬を染めた顔に変わるのだろうから。
上層部不在の部屋では、スクリーンにライブ放送されたドラマに歓声さえ上がっていた。
が。
イレギュラーな事態というものは必ず発生する。
例えばそれが、オートボットによるスペースブリッジの破壊だとか。
計画の建て直しを図ったメガトロンが、その爆発に巻き込まれたとか。
つまりはそういうものだ。
もしサウンドウェーブがメガトロンと行動を共にしていたならば、多少の修正は出来たかもしれない。
だが彼は地上で“表”の作戦進行に取り掛かっていたのだ。
そしてスタースクリームも、爆発からネメシス艦を遠ざけるという、ドジばかりの彼にしては最善の判断をこなしていた。
問題は、メガトロンというプロデューサーを失ってしまった事実だ。
スタースクリームのニューリーダー宣言に関しては、いつもの事なのでクルー全員が聞き流していた。
そんな事よりも、だ。
再びあの平坦で退屈なドラマに戻ってしまうのだろうか。
ビーコンたちの危惧は、そこにあった。
「メインルームのモニターいっぱいにスタースクリーム様が大写しになった時はちょっと嬉しかったけどなぁ」
ぽつりと、エネルゴンドリンクを片手に一人のビーコンが呟く。
彼のメモリーに焼き付いているのは勿論、メガトロンに伏線を張られた時のスタースクリームの表情だった。
「そりゃまぁ、俺だって嬉しかったさ。何せ幹部方がいない時しか、メインルームでフルスクリーンは使えないもんな」
つまらなそうに嘆息したのは、隣に座っていた方のビーコンだ。
「・・・俺、作戦が遂行された後はメインルームで裏企画のライブビューイングの切り替え任されてたんだ」
「マジか」
ちなみにラウンジの何処でも、同じ様な会話がなされていた。
ぽそぽそと語られる言葉、そして最後には決まって重い溜息。
古参のビーコンは、黙って手元の小型モニターを眺めている。
若手ビーコン達よりもずっと長くあのドラマの続きを待っている彼らにしてみれば、今回は肩透かしを食らった様なものだっただろう。
先輩方にせめてもの慰めを、と一人が酌をしに立ち上がったその時。
ラウンジの壁面に設置されたスクリーンに、渦中の両参謀の姿が映った――――――不定期放送ドラマが、始まったのだ。
大きなどよめきが、巻き起こる。
「何だ、どうした?!」
「二人きりだと?!」
ざわめく若手ビーコンたちを余所に、古参達はやや優越感に満ちた表情で語る。
「やはりな」
「ああ」
「っど、どういう事ですか!!」
訳知り顔の先輩に、一人の若手が訊ねる。
ラウンジの大半を占める若手が一様に抱いた疑問に、少数の古参は簡単に答えてくれた。
「大きな事が起きた後、スタースクリーム様は何某かの行動を必ず起こすんだ」
「御一人で行動する事もあるが、今回は当たりだった様だな」
「・・・っまさか、先輩方はこの放送を予測して?!」
指導者の死に誰もが油断していたというのに、古参ビーコンたちは抜かりが無かった。
慌てて自分の録画端末を探る者、壁面モニターに釘付けになる者、そして―――
「会話だけなら少し前からキャッチしていたんだ。欲しい奴、ダビングしてやるぞ」
「おい、本編見逃すぞ。いくら同時録画とはいえ良くない」
慣れ切った先輩方の態度に、若手はただ感服するばかりだった。
ちなみに本日のゲリラ放送分は、ニューリーダー様が悪だくみをするも失敗するといういつもの展開だったが、さり気なくプロデューサーのボディが回収されるという重要な回でもあった。
破壊大帝の体に馬乗りになるスタースクリームの姿が大写しになり、皆のアイセンサーはただその一点に集中した。
「ナニコレドウイウコトナノ」
「情報参謀様もこの光景見たんだよ、な・・・・」
「オオゥ・・・・・・・」
「誰かプロデューサー起こしてこいよ・・・伏線マジでこっち路線なのか確認しろって」
そうして、幹部達の帰還コールが鳴るまでの間――――皆呆然とモニターの前に立ち尽くすのであった。
*****************続*******
2012.12.09