それが昼間ならば、ある程度の緊張感を保っていられるだろう。

戦闘中ならば尚更だ。

だがそれが深夜だったなら、どうだろう。

――――モニター監視程、つまらないものはない。

 

 

ミッドナイトプログラム。

 

 

 

「何で2の俺様がこんな下っ端業務やんなきゃならねぇんだよ・・・」

ぐだぐだ、ぶちぶち。

長々と続けられる愚痴に、聞き流していたサウンドウェーブは別の所で感心していた。

業務交代でスタースクリームがやってきてから、既に二時間。

つまり二時間もの間延々とこの愚痴は続いているのだ。

同じ様な事を繰り返しているに過ぎないが、よくもまぁ口が回る。

――――退屈である事は、サウンドウェーブとて否定しない。

コンソールに長い足をどかりと乗せたスタースクリームは、尚もぶつぶつと愚痴を零していたがやがて何を思ったのか、隣に座る情報参謀の肘を軽くつついた。

「ナンダ」

「こういう時こそお前の出番じゃねぇのかよ、サウンドシステム」

にやにやと口角を吊り上げ笑う姿は、悪の軍団の2にしては聊か子供っぽい表情だ。

だがそんな外れた感想を抱くサウンドウェーブには構わず、航空参謀は尚も続ける。

「レクリエーションの一つも用意してくれって話だよ」

「ソンナ機能ハ無イ」

何を馬鹿な事を。

そう一笑に伏して終わらせるつもりだったのだが。

「サイバトロンの赤い奴は色々垂れ流してたぜ?」

スタースクリームのこの一言に、ブレインのどこかが唸りを上げた。

「―――アイツト一緒ニスルナ、気分ガ悪イ」

「出来ねぇのかよ。あっちのが最新型ってか?」

挑発だと、判っている。

判っているのだが、あの赤いイカレサウンドを引き合いに出されるとどうも自分の感情が制御出来ないのだ。

存在を思い出すだけでふつふつと煮えるこの憎悪を、何処に向けたら良い。

暫しの沈黙ののち、サウンドウェーブは静かにトランスフォームした。

青いカセットデッキはスタースクリームの腕の中に収まると、静かに内部の音声データを流し始める。

 

それはこの星でサウンドウェーブが集めた、所謂ラジオ放送を録音したものだった。

カセットロン達が暇を持て余した時によく流しているものだが、その際は彼らのリクエストに寄る為殆どが音楽情報だ。

一度試しに“コレを流した時は、二度とやらないでくれと涙ながらに訴えられたものだ。

さて、この愚かな航空参謀はどんな反応を見せるだろうか。

淡々と語る男の声に、スタースクリームはすっかり話に引き込まれている様だった。

 

 

 

『後ろには誰もいない。その筈なのに―――聞こえるんだ』

『ひた、ひた、と水を滴らせて歩く音が』

『不安を振り払う為に、振り返ってみた。けれど・・・誰もいない』

 

 

「・・・、」

ごく、とスタースクリームが口内オイルを飲み込む音が聞こえた。

先程までは軽く抱えているだけだった筈なのに、今やその腕はしっかりとサウンドウェーブを抱いて離そうとしない。

 

 

『怖くなって、男は一気に階段を駆け上がった。もつれる足はどうにか自分の部屋まで連れて行ってくれた』

『ドアを閉めて、深呼吸を繰り返す・・・大丈夫、気の所為だ。見慣れた自分の部屋に安心して、笑んだ』

『その時だ。“カン・・・カン・・・カン・・・――――階段を昇る音が、聞こえた』

『あのぴちゃぴちゃという足音が、まさに壁の向こうで立ち止まったんだ』

『誰だ、誰がいるんだ・・・・あの足音に恐怖を感じていたのに、聞こえなくなった方が恐ろしく感じた』

『男は、ゆっくりとドアノブに手を掛けた。そうっと、そうっと回して隙間から廊下を・・・』

 

ガシャッ

 

「!!!!」

背中の方で響いた音に、スタースクリームは文字通り飛び上がった。

着地に失敗し床に強かに腰をぶつけたスタースクリームが悲鳴を上げる。

「ッ痛てぇ・・・!!!」

「・・・何やってんだお前?」

入口の方で怪訝にこちらを眺めるスカイワープの姿に、スタースクリームは急ぎ起き上がった。

「っべ、別にちょっとした余興だよ!!ンな事より、何しに来やがった!」

「何って、交代の時間だから来たに決まってんだろぃ。それより何だお前、サウンドウェーブ抱き締めて気持ち悪リィ」

スカイワープの指摘通り、スタースクリームの腕にはしっかりとサウンドウェーブが抱えられたままだった。

慌てて放り出せば、空中で鮮やかにトランスフォームした機体は何事も無かったかの様に佇んでいる。

「モウ一人ノ当番ハ誰ダ」

「フレンジー。どうせ暇だからつまみ持ってくるってよ」

欠伸混じりに答えるスカイワープに、漸く立ち上がったスタースクリームは引き攣った笑みを浮かべた。

「っじゃ、じゃあ俺様はおさらばさせて貰うぜ!!頼んだぜスカイワープ!!」

ワープばりの素早い動きで立ち去ったスタースクリームに、残されたスカイワープは尚も首を傾げている。

何があったのかを問いたい様ではあるが、生憎サウンドウェーブには答えるつもりは無かった。

 

そのまま自分も部屋を後にすれば、今し方飛び出して行った筈のスタースクリームが廊下に立っていた。

 

 

「――――」

「・・・・・・」

 

 

どうやら航空参謀殿は、一人で部屋に戻るのが怖いらしい。

フ、とマスクの下で微かに笑うと、雰囲気を感じてかスタースクリームが頭突きをしてきた。

全て想定の範囲内の行動だった為、サウンドウェーブは何ら動じる事なく―――腰に抱きつく航空参謀の姿を丁寧に記録しておいた。

「部屋マデ送ッテ欲シイカ?」

「お前がそうしたいってんなら、特別に送らせてやろうじゃねぇか」

あくまで上からの物言いに、普段ならば馬鹿にして置き去りにするところなのだが。

同僚の要望通り、部屋まで送る事にしてやったサウンドウェーブだった。

 

 

 

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音波さんの怪談で泣くスタスクを書きたかったんですけど・・・

泣いてないな。デレただけだな。ぬるいな。偽物だな。

勿論この後『送リ賃ダ』と夜の運動に発展してもいいと思います。

 

2011.08.29