「だからよォ、そんで・・・・おい、聞いてんのかサウンドウェーブ」

「聞イテイル」

がくがくと肩を揺さぶられながら端的に頷けば、それだけで相手は満足したのか大人しく座り直す。

――――サウンドウェーブの計算では、あと五分後には再び同じ遣り取りを交わすだろう。

今までに経験した同じシチュエーションから導き出される推測に、誤差は0.9パーセントといったところか。

決して良い呑み方をしているとは思えない同僚のくだ巻きを聞きながら、サウンドウェーブは静かに己のグラスを傾けた。

 

 

 

 

ショクバレンアイハ、OK

 

 

 

 

デストロンにおける互いの立場は、所属こそ違えど共に参謀の位にある。

在籍で言えばサウンドウェーブの方が長いが、軍団の2はスタースクリームだ。

そう決めたのはメガトロンだし、サウンドウェーブ自身はそこに何ら不満を抱いた事は無い。

だから時々二人がこうして呑みの席を共にしているのは、当人達にとっては別段珍しい事でも意外な事でも無いのだ。

サウンドウェーブがスタースクリームと呑んでいる、という事実を知った時、フレンジーはへぇ?、と面白そうに笑った。

『だってよぅ、あのスタースクリームとだぜぇ?ギャンギャン喧しいだけの酒なんて、ちっとも美味くねぇじゃんかよ。』

だから意外だと。

最も付き合いの長い部下であるフレンジーさえそう思うのならば、軍内の誰もがそう思っていて当然だろう。

確かにスタースクリームとの酒は、喧しい。

大体が意味不明な思考回路に基づく奴の主張とその夢想論であり、時には酔い潰れたスタースクリームを抱えて帰らねばならない。

こちらの利は何もない。それは事実だ。

それでもスタースクリームに誘われれば、情報参謀殿は二つ返事で連れ立って行くのだ。

セイバートロン星にいた頃はレーザーウェーブも呼んで、三人で行ったものだ。

今は留守を預かる最古参の事を話題に出せば、次の休みは向こうに行こうぜと提案される。

「どうせあのカタブツの事だ、長く基地を空けたくないとか言うんだろ」

「言ウダロウナ」

「アシッドストーム達だけでもどうにかなるだろうになー。・・・まぁいい、なら基地に酒持ち込めば済む話だしな」

共通の、そして今この場にいない知人の話だけでも随分盛り上がる。

傍から見ればスタースクリームが一人騒いでいる様にしか見えないだろうが、それが自分達の常であった。

 

そうして、スタースクリームが調子に乗ってペースを速め―――早々にブレインサーキットを暴走させるのも、常なのだ。

 

 

 

「んー・・・サウンドウェーブー・・・聞いてんのかー」

「聞イテイル」

「俺様が、にゅーりーだーになったあとの、はなしだぞー」

「アア」

「ちゃんと、聞けー」

「聞イテイル」

全く、テンプレートというか何というか。

微々たるイレギュラーこそあるものの、スタースクリームと呑みに行った時はほぼ想定通りの展開になる。

テーブルに突っ伏したスタースクリームの後頭部を観察しながら、サウンドウェーブが小さく排気した。

「・・・呑ミ過ギダ」

「いや、俺はまだ行ける。」

「相変ワラズ返事ダケハ立派ダナ」

 

このやりとりも、何度交わした事か。

恐らく録音した自分の音声を流していても、スタースクリームは気付かないだろう。

そしてあと二十分もすれば、この年下の同僚は完全に酔い潰れるのだ。

潰れるまで呑ませなければ良いのだとよくレーザーウェーブに叱られたものだが、制した所でスタースクリームが利かないのは明白だ。

勝手に好きなだけ呑ませて、潰れたら回収すれば良い。

ただ、それだけの事だ。

 

今日も予想に漏れず寝息を立て始めたスタースクリームの横顔を眺めながら、サウンドウェーブはふと、フレンジーの言葉を思い出した。

『だってよぅ、あのスタースクリームとだぜぇ?ギャンギャン喧しいだけの酒なんて、ちっとも美味くねぇじゃんかよ。』

ただ喧しいだけの酒ならば、誰だってお断りだ。

サウンドウェーブ自身、例えば他の喧しい何某かとの席を頼まれたとしても断るだろう。

スタースクリームだけ例外なのは、恐らく―――――

「・・・」

膨大な過去のメモリーの中に埋もれた、しかしすぐにでも取り出せるデータをブレイン内だけでひっそりと再生させる。

まだスタースクリームが航空参謀の地位について間も無い程昔だったと、記録の日付で得心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それまでサウンドウェーブは、スタースクリームと酒の席に着く事を嫌ってさえいた。

喧しい酒は好みではなかったし、延々と理解不能な思想や愚痴を聞き続ける忍耐を持ち合わせてはいなかった。

だから世話役のレーザーウェーブがいる事を条件に付き合っていたのだが、その日は肝心の彼が途中で離席するというアクシデントが起きた。

メガトロンからの呼び出しとあれば、既に酔っ払ったスタースクリームをそのまま引き取ってもらう事も出来ない。

必ず回収しに戻るからと詫びていったレーザーウェーブに、いっそこのまま放置して先に帰投してしまおうかと思案していた、その時だった。

半分スリープモードに移行しつつあったスタースクリームが、ぼんやりとこちらを見上げていたのだ。

目線が合った事で、薄く開いていた口がきゅうっと笑みに深まる。

 

『―――』

 

ただでさえ多弁とは言い難いが、束の間サウンドウェーブは言葉を失った。

フリーズしたブレインサーキットが復旧するのに然程時間は掛からなかったが、まともな思考を取り戻した頃には既にスタースクリームは落ちていた。

『・・・オイ!』

一度オフラインになったスタースクリームは、中々起きない。

元々航空部隊でも寝汚いと有名だ。そんな彼が、サウンドウェーブに肩を揺すられたぐらいでは起きないだろう。

すよすよと心地良さそうに排気するスタースクリームに、サウンドウェーブは深く項垂れた。

 

 

 

 

 

 

 

それ以来、サウンドウェーブがスタースクリームの誘いを断わる事は無くなった。

同席さえ渋る程だった情報参謀の変わり様にレーザーウェーブは驚いていたが、二人が親睦を深める事にデメリットは無いと歓迎し、特に追求はしてこなかった。

サウンドウェーブは、どうしても再び目にしたかったのだ。

普段からくるくるとよく表情を変えるあの航空参謀が、あんなふうに――――微笑する瞬間を。

とはいえそれから再び目に出来たのは、数千年後の事だったと次のメモリーが語っている。

その間にサウンドウェーブは、スタースクリームの酔い方を完全に把握しそして慣れてしまっていた。

 

適度に相槌を打っていれば、彼は満足する。

絡み酒ではあるものの、酔っていない時に比べると割合素直に言う事を聞く。

そして酔い潰れる寸前、極稀にあの笑みを見せるのだ。

 

それは他の者が知らない、自分だけが知り得ているスタースクリームの“情報である。

いつの間にか勝手に膝を枕代わりにしている同僚の頬を撫でながら、サウンドウェーブは一人上機嫌でグラスを呷るのであった。

 

 

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「こいつろくでなしだけど飲んでる時は結構可愛いんだぜ」みたいな先輩目線。

恋愛感情あっても良いし無くても良いな・・・なんだこいつら萌えだな。

音波さんの口調はカタカナ表記と通常どちらがいいのだろう・・・。

 

11.05.07