昔々、まだサイバトロン星が平和だった頃の話。

デモリッシャーの中華屋の角を曲がって、スィンドルの質屋の先に、ぽつんと小さな空き地がありました。

それは大人の大型のトランスフォーマーにとってはちっぽけな空き地でしたが、幼年体にとっては充分に大きな空き地でした。

その端に置かれた土管の中は、バリケードとブラックアウトの秘密基地でした。

ブラックアウトは大型の、バリケードは中型の幼年体でしたが、まだ成長期に入っていないので彼らの体は同じぐらいの大きさでした。

 

 

 

幼馴染が出来た日

 

 

「そういえば」

お小遣いで買ったエネルゴン・サイダーを舐めながら、バリケードがぽつりと思い出した様に呟きます。

「あの空き家に、だれか引越ししてくるらしいぜ」

それは秘密基地からほんのちょっとだけ屋根が見える、もう随分長いこと誰も住んでいない家でした。

平たくて大きいそこの庭は、よくブラックアウトが飛行練習に潜り込んでいたので二人とも良く知った場所だったのです。

「ひとが来るのか」

それは困る。

エネルゴンクッキーの欠片をスコルポノックに与えながら、ブラックアウトがむぅと唸ります。

同型機である叔父さんの世話になっているブラックアウトは、まだきちんと飛べた事がありません。

叔父さんを驚かせる為に、毎日練習をしているのですが―――それには叔父さんの屋敷ではなく、あの空き家の庭がちょうどよかったのです。

「何でも、軍のえらいやつが住むんだとさ」

フレンジーがはなしてたぜ、と得意げに教えるバリケードのランプがちかちかと光りました。

友達の情報網に、ブラックアウトは感心しつつため息を零します。

「それでは、今後潜り込んだらおこられるんだろうな」

「なに、」

ぴょん、とバリケードが土管の上から飛び退きます。

しっかりと着地した彼は、胸を張ってこういいました。

「上手いこと話をもっていって、使わせてもらえばいい。たしょう、てあらなしゅだんを使ってもな」

フレンジーの保護者のまねをして、バリケードはにやりと笑いました。

「なるほど」

スコルポノックを撫で、ブラックアウトも立ち上がりました。

たしょう、てあらなしゅだんというものが何かは良くわかりませんが、バリケードは大人相手でも話が上手いのです。

きっと、何かいい方向に持っていってくれるのだとブラックアウトは思いました。

その時です。

 

「おい、きさまらそこでなにをしているんだ?」

 

聞き慣れない声に、二人は驚きました。

ボッツのちびたちとはこの間派手にやらかして、大人に叱られたばかりです。

ですがその甲斐あって、れんちゅうとは商店街の真ん中から境界を作ってなわばりを守ったのでした。

だから商店街からこちら側はディセプティコンのなわばりであって、そしてディセプティコンの奴は皆顔見知りなのです。

聞きなれない声という事は、ボッツに違いありません。

声の主は、驚いたままの二人にふんっと鼻で笑いました。

「なにもいえんのか、わいしょうなスパークの持ち主とみえる」

多分同い年ぐらいの、しかしブラックアウトより小さいトランスフォーマーです。

その子の物怖じしない態度に、バリケードはかちんと頭にきました。

「けっ、ボッツがのこのこき何の用だ」

「ボッツ?なにを言っている?」

相手が首を傾げます。

真っ赤な目が、不思議そうにバリケードを覗き込みます。

その目があんまりにも綺麗なので、バリケードは思わず口篭ってしまいました。

こんな目の幼年体は、ボッツでも見かけません。

「お前、あっちから来たんじゃないのか」

様子を伺っていたブラックアウトが商店街の方を指します。

が、その幼年体はぷるぷると首を振りました。

「そんな所から来るものか。おれはあっちから来た」

そう言って小さな手が指したのは、ブラックアウトが指した方の反対側です。

「今日からじじいとここに住むことになったんだ。ばあいによってはきさまらをドレイにしてやっても構わんぞ」

胸を張ると、その幼年体の背中で翼がパタパタと揺れました。

その羽を見て、ブラックアウトは気がつきました。

この幼年体は、自分と同じく空を飛ぶタイプのトランスフォーマーなのです。

「じじいとここに住む?という事は、お前―――」

ブラックアウトが再び問いかけると、

 

「これ、ちょろちょろするもんじゃない」

「じじい!」

 

いつの間に来たのでしょう、ずっとずっと大きな真っ黒いトランスフォーマーが例の幼年体の頭を鷲掴みにしていました。

その後ろの方には、グラインダー叔父さんとデモリッシャーもいます。

保護者達の登場に、幼年体の三名は大慌てです。

「叔父さん、どうして」

「ジェットファイア氏の手伝いだ」

「じぇっと、?」

「そこの空き家に、今日からお孫さんと暮らすんだよ。もう会ったみたいだな?」

叔父さんの言葉に、大きな黒い機体とその掌に乗っけられたちびを交互に眺めるブラックアウト。

「そんじゃあ、テメェが越してきたヤツか」

バリケードが舌打ちすると、デモリッシャーがごつんと大きなゲンコツを彼の頭に落としました。

「何しやがんだ!」

「口が悪いぞバリケード」

「よいよい」

バリケードを庇ったのは、黒い機体です。

「うちの孫も口が悪くてかなわん。だが良かったら仲良くしてやってくれ」

「ちがうぞじじい、こいつらはおれのドレイだ――――」

ぎゅむ。大きな掌に包まれる様にして、ちびが口を塞がれてしまいました。

それはどちらかというと布団に包まれてしまった様な有様でしたが、暫く拳の中でわめき声が聞こえた後、急に静かになりました。

頃合を見計らって開かれた掌には、ちびがじじいの親指を掴んで座っていました。

よっぽど不服だったのでしょう、すっかり拗ねてしまっています。

「ちゃんと自己紹介をしたのか?」

「――――きさまらに教えるにはもったいないが、仕方あるまい。スタースクリームだ」

ぷい、とそっぽを向いたままスタースクリームが名前を述べました。

その間に保護者達も、自分の所の悪戯坊主を捕まえていました。

「・・・ブラックアウトだ」

「・・・バリケード」

よく挨拶出来たとグラインダーは褒めていましたが、何だか居心地が悪くてもぞもぞします。

 

やがてスタースクリームがじじいの掌から解放されると、グラインダーがぽんと手を打って提案しました。

「子供達も仲良くなったことですし、もう若い人たちに任せて我々は荷解きと宴会の準備に戻りましょう」

「ふむ、悪くないな」

デモリッシャーとジェットファイアが、顔を見合わせて笑っています。

お酒が出ると知ったので、大人たちは軽やかな足取りで戻っていってしまいました。

後に残されたのは、気まずい空気もそのままのこどもたちです。

 

「「「・・・」」」

 

誰が何をどう言ったらいいのか。

子供なりに場の空気に戸惑っていると、土管に残っていたスコルポノックが出てきました。

「!」

スタースクリームが驚き、一歩退きます。

「な、なんだそいつ」

「?知らねぇの?」

思わずバリケードが訊ねれば、スタースクリームはこくりと頷きます。

「俺のドローンだ。スコルポノックという」

スコルポノックを抱き上げながら、ブラックアウトは少し誇らしげに紹介してやりました。

スコルポノックはというと、スタースクリームを興味深げに見ています。

警戒したままのスタースクリームに今度こそバリケードは何か言い返してやろうと思いましたが、察したブラックアウトに止められてしまいます。

そんな二人を他所に、スタースクリームは恐々とスコルポノックに手を伸ばしてみました。

「・・・平気だ、こいつは噛まない」

「・・・ほんとだ」

嬉しそうに鳴くスコルポノックにつられて、スタースクリームもふっと目を細めます。

ブラックアウトは暫し惚けた様にスタースクリームの顔を見つめていましたが、やがて咳払いの後に、恭しく手を差し出しました。

「これから、宜しく」

「お、おう」

「!」

慌てて参加したバリケードを含めて、三つの手とひとつのハサミが重ねられました。

 

そんな、むかしむかしの邂逅の、おはなし。

 

 

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某方々に差し上げたお年玉小説ww

「ブラックアウト+スコポン、バリケード、スタスクが三丁目的幼馴染だったら可愛くね?」というつぶやきから始まったネタでした。

ショタの良さは、生意気な部分と素直な部分が等しいところだと思います←

 

2013.01