10.5

 

 

 

 

 

 

レーザーウェーブから通信が入ったのは、もう三十分以上前の事だ。

だが通信を入れてきた筈の本人は、メガトロンと繋がっているにも関わらず用件を伝えない。

メガトロン自身も押し黙っている為、かれこれ三十分、この沈黙が続いている事になる。

「・・・・」

『・・・・』

セイバートロン星で留守を預かるこの機体は、モノアイ式のデストロンだ。

即ち、表情が無い。感情こそあれ、メガトロンの知るレーザーウェーブは常に忠実で、余計な事を何一つしない。

だからこそ、留守役に命じたのだ。

己の最も忠実な部下。

――――――あれとは、大違いだ。

微かな嘆息が伝わったのか、モニターの向こうでレーザーウェーブが僅かにフェイスパーツを傾けた。

しかし何か報告がある筈の部下は、相変わらず何も語ろうとしない。

「・・・レーザーウェーブ」

『はい、メガトロン様』

「何か、儂に言いたいのではないのか」

口にしてみて、自分でも愚かな問いだと思った。

破壊大帝は、一体何を問うているのか。

メガトロンの問いに、レーザーウェーブはぱちりとモノアイを瞬かせた。

『私が、ですか?』

「・・・・そうに、決まっておろう」

でなくば、わざわざ通信を寄越したりしない筈だ。

忠僕らしからぬ問い返しに、メガトロンもまた首を傾げた。

 

『私は、メガトロン様が何か仰りたいのかと』

「なに?」

何の事だ、そう問おうとして悟った。

レーザーウェーブは知っているのだ。メガトロンが決断し、サウンドウェーブに命じた事を。

スタースクリームに行った行為を。

それを咎める権利は、レーザーウェーブには勿論無い。当事者であるスタースクリームにさえ無いのだ。

始末に負えぬ部下を一つ、再利用出来る形にしただけの事だ。何とも破壊大帝らしい行いではないか。

メガトロンは辛抱した方だ。今までのスタースクリームの所業を知る者ならば、皆同様の意見を持つだろう。

しかし、スタースクリームが消えた後のデストロンには奇妙な沈黙が漂っていた。

馬鹿馬鹿しいと何度切り捨てても、気がつけば同じ事を考えていた。

 

―――――本当に、馬鹿馬鹿しい。この儂が、後悔しているとでも?

 

「・・・・」

黙したメガトロンに、レーザーウェーブはひたすら主の言葉を待った。

従順な犬の様に、じっとこちらを見ている。

「・・・・」

『・・・・』

「・・・・レーザーウェーブ」

『はい、メガトロン様』

「お前は、どう思った」

赤いモノアイを、メガトロンが真っ直ぐ見据えた。

一度とて逆らった事のない部下は、何を思ったのだろうか。

『―――――”破壊”と”洗脳”。如何にもデストロンらしい手段かと』

「儂が誤った判断をしたと?」

知らず、声が冷たくなった。

レーザーウェーブに意見を求めたのは自分だ。なのに、この忠僕に言われた言葉がやけに引っ掛かる。

『いえ、私もスタースクリームのあの“病”には頭痛を覚えます・・・・・・・・ですが』

「勿体ぶるな」

『デストロンの航空参謀の下剋上は、この軍の性質を良く表していると言って差し支えないかと』

「なに?」

『力こそ正義。圧政の下に平和を。それが我らの信条でしょう』

「・・そうだ」

それ故に、サイバトロンとの戦争を続けている。

奴らが悪と罵るなら、あえて自ら名乗ろうではいか。

愚かな自己犠牲を重ね自壊の道を選ぶ様な連中こそ、狂っているとしか思えない。

『己の利を第一に考え、隙あらば寝首を掻き、どんな手を使っても生き永らえ“次”を狙う―――それがあやつの姿勢です』

「・・・」

それは、デストロンそのものだ。

『あれの一切を肯定する訳ではありませんが、メガトロン様もそれを知っていたからこそ、奴を2に据えたのでしょう?』

「・・・」

扱いにくい事この上無い愚か者だ。

だが、その飢えた姿勢が気に入っていたのも事実だ。

スタースクリームに求めていたのは、レーザーウェーブの様な忠実さではないという事か。

剣呑にアイセンサーを細めるメガトロンに、レーザーウェーブは静かに問い続ける。

『あれはまだ見つかっていないとの事。妙な仕返しに、こちらの情報をサイバトロンに漏洩されるのも少々やっかいですな』

「・・・・・・・・」

 

サウンドウェーブは未だスタースクリームを見つけられずにいる。

例のクレーター以降痕跡はふつりと途絶えてしまったが、宇宙に出たという様子は無かった。

ならばどこかに潜伏している筈だ。

そしてサイバトロンには確か、奴の旧友がいた。

スタースクリームが向こうの治療等を受け、復讐を条件にあちらへ加わったら?面倒は増える一方だ。

 

『それにメガトロン様、貴方様は一つ見誤っておられます』

「何だと」

『いかにあれが扱い辛い駒であろうと、手綱を誤る貴方様ではない筈です』

「・・・・・・・」

 

もし今話しているのがレーザーウェーブでなくば、こんな結論にはならなかっただろう。

輝くモノアイを見つめ、メガトロンは嗤った。

破壊大帝を説得とは、防衛参謀殿はなかなかの策士である。

「―――通信を終える」

『デストロンに勝利あれ』

モニターの向こうで、忠僕が敬礼する。

映像が途絶えると、途端部屋は静かになった。

ブラックアウトしたモニターを暫く眺めた後――――破壊大帝は一つ、通信を入れた。

 

「サウンドウェーブ、司令室に来い」

 

 

 

 

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