6.

 

 

 

 

 

「じゃあ、行ってくるね」

「おう」

名残惜しげに何度もこちらを振り返るスカイファイアーに、スタースクリームは苦笑した。

閉まるドアの向こうでも、彼はもう一度こちらを見ていた。

心配するな、逃げやしない――――――そう思いながらも、何故そんな考えを持つのかが不思議だった。

逃げる?そんな必要はない。

逃げる?一体何処に。

「・・・・」

己の内の、奇妙な思考にいつも戸惑う。

疑問に目を向ければ、幾らでも見つかるのだ。

現状に疑いを抱けと、何かが命令している。

そして同じ様に、別の何か“気にするな”と命じるのだ。

スカイファイアーと共にいる時は、何も考えずに済んだ。

けれど一人になると、ブレインが熱くなる。

何かがおかしい。間違っている。

何か欠けている。

 

 

 

何を、失くした?

 

 

 

「・・・・チッ」

消えぬ思考の靄に苛立ち、乱暴に腰を下ろすと弾みでキャノピー内の何かが音を立てた。

「あ?」

探り入れたが掴んだそれは、小さな記録媒体だった。

人間で言うならば角砂糖程の大きさの媒体は、セイバートロンでもよく使われていた。

だがそれが何故、己のキャノピーの中にあるのだろうか。

いや、自分はこれが何か知っている筈だ。

必要なものだった筈だ。

気にする必要はないと囁く“何か”から必死に耳を塞ぎ、ゆっくりと小さな正方形を眺める。

コードを伸ばし接続すると、急速に意識が持って行かれた。

 

 

 

 

 

 

データの同期を行うのは、何もそんなに難しい事ではない。

コピーしておいたデータが、こちらへダウンロードされるだけの事だ。

無くしたパズルのピースが何処からか現れ、欲しかった場所にかちりと当てはまる。例えるならそんなものだろうか。

データが次々と補われていくと、満足感が得られた。

そうだ。そうだったと、納得できる。

だがしかし、何故このメモリーの存在を忘れていたのだろうか。

スカイファイアーも、記録媒体がある事を教えてくれれば良かったのに。

まるで幼年体の様にあれこれ世話を焼かれた事を考えると、悔しくなった。

あいつは、知っていた筈だ。

知っていたのに、馬鹿になっていく俺に付き添った。

何故だ。嘲る為か。

そもそも、決別した筈の相手を何故匿う?それも理解出来ない。

同期し終えれば判る事かもしれない。

ダウンロードが終わるまで、あと少し。

記憶を取り戻しつつあったブレインの中で、実行命令を出していないプログラムが作動した。

 

 

『無駄だ、スタースクリーム』

「?!」

 

紺色の手が見えた気が、した。

そしてそれきり、スタースクリームのブレインは強制終了してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“俺様の名前は、スタースクリーム”

 

“       の2で       、いずれは      を蹴落として      になる”

“今はくそったれ陰険野郎の        の所為で、ブレインに重大なエラーを抱えている”

“―――――不本意だが、      の連中の世話になっている”

 

 

「・・・・何だこりゃ」

穴だらけのメモリーに、スタースクリームは辟易した。

強制終了から起き上がったら、この有様だ。

低能な暗号文じゃあるまいし、かといって何が言いたいのかさっぱり判らない。

奇妙な空白を埋める材料が、無いのだ。

こんな馬鹿げたデータを、何故とっておいたのだろう。それも、メモリー内部の最重要フォルダに。

ブレインをどこかにぶつけたか?と記憶をソートしてみるが、そんな記録は無かった。

「仕方ねえ、後でアイツに診てもらう、か、・・・・・・・」

 

独り言が、途切れる。

アイツとは、誰の事だっただろう。

 

辺りを見回してみて、急にセンサーが危険信号を出した。

ここは、何処だ。

俺の部屋じゃない。誰かの部屋だ。

しかし、誰の?

必死にブレイン内部のメモリーを漁るが、明確な答えが引き出されない。

一瞬だけ、何かが過った。

 

白くて

 

でかくて

 

同じ、空を飛んだ

 

 

「・・・・・・・・え、あ・・・、あ・・・・・?」

 

求める存在のデータは捉えられた。そうだ、忘れる筈がないのだ。

――――忘れたくたって、忘れられる筈がねぇ。

なのに、名前が出てこない。

 

「          ・・・!!!!」

 

 

 

 

 

ブレインが、再び停止した。

 

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