むかしむかしの、きみ。

 

 

 

最初に彼に興味を持ったのは、研究所内で行われた会議の席だったかと思う。

元々分野の違う研究についていたし、悪評こそ聞こえていたが姿を見たのは初めてだった。

遅れて着席してきた彼が自分の目に留まったのは、恐らくその機体に背負われた翼が、そうさせたのだろう。

飛行型のトランスフォーマーがまだ珍しい中、研究所という更に限定された場所では嫌でも目立つ。

スカイファイアーの知っている限り、この研究所に所属している飛行型は自分ともう一人の“有名人”だけだ。

それで彼が噂の『スタースクリーム』だと気付いた。

 

白い翼に赤い差し色が、自分に似ていて少し面白かった。それがまず、第一印象だろうか。

次に思った事は、悪評から想像していた彼とは随分違うことだった。

色の濃い顔と、真っ赤なアイカメラ。つまらなそうに頬杖をついた姿は『悪魔の如き所業』とはあまり結びつかない。

あと、思っていたよりも小さい。

自分の巨体からすれば皆小さい部類に入ってしまうとは判っているが、所作が幼い為そんな印象を受けるのだと感じた。

 

 

そうやって観察を始めたところで所長が登場し、長い挨拶が始まった為一度は思考をそちらに切り替えた。

のだが。

元々所長の挨拶は長い事で有名だった。内容が有益ならまだしも、殆どが中身のない話なのだ。

周囲の評価によるスカイファイアーはドがつく真面目な所員だが、自分では然程真面目なつもりはない。

ただ周りの様にあからさまに態度に出さないだけだ。内心では他の皆と同じ様に、速く研究に戻りたいし話が終わって欲しいと願っている。

こうして今日も無駄に時間を浪費するのかと嘆いた、その時だった。

 

「その挨拶、まだ掛かるんなら一端休憩を入れちゃくれませんかね」

 

静まり返っていた講堂に響いた声に、所長の話がぴたりと止まった。

皆の視線を一斉に集めた機体は、ご丁寧に挙手までして不敵な笑みを浮かべている。

スタースクリームだ。

「俺様も多忙なンで、出来れば・・・そうですな、そういった有難いお話はスリープ時に流して頂けると、良く眠れる気がしますなぁ」

惚けた物言いに、あちこちからクスクスと笑い声が漏れる。

からかわれた所長は顔を真っ赤にして怒っていたが、ここで怒鳴る事の無意味さを悟ったのだろう、挨拶を終えると呟き、マイクの電源を落とした。

その遣り取りに、隣の同僚が笑いを堪えながらスカイファイアーの肩を叩く。

「全く、あいつが役に立つのはこういう時だけだな」

「そういうものなのかい?」

「今日はいつ言い出してくれるか待ってたぐらいだ。見ろよ、所長の奴ずっとスタースクリームを睨んでる」

成る程、物怖じしない性格は普段は敬遠されるが、こういった場面では重宝されるらしい。

一人感心するスカイファイアーに、同僚は尚もエピソードを語ってくれた。

「人を怒らせる事にかけちゃ天才だよあいつは。こないだもB棟の奴が最高傑作だって言った論文を見て『つまんねぇ』の一言だぜ?」

「実際どうだったんだい?」

「あー・・・・まぁ確かに、目新しい発見があったわけでもないしな。けど仮にも先輩に値する奴の論文だぜ?俺ならお世辞の一つも言うがね」

「成る程ね・・・」

つまり彼は、皆がワンクッション置くものに対しても率直に本音を言うタイプなのだろう。

相手の感情を考えない事はともかく、そうやってさっくり自分の意見を口に出せる性格は好ましいと思った。

 

 

 

    * *

 

 

 

「それが君へ抱いた、最初の好意的感情かな」

にこにこと微笑みながら語るスカイファイアーに、スタースクリームは大きく溜息をついた。

――――出張申請の許可が下りるまでの時間、暇を持て余していたのは確かだ。

そして何でもいいから話をしろ、と言ったのも自分だ。

だがまさか、そんな昔の話が出て来るとは思わなかった。

目の前の相棒は、スタースクリームの呆れた様子にも機嫌を損ねる事なく、むしろ楽しそうにしている。

「それから・・・そうだな、ちょくちょく君の事を観察してたよ」

「あ?」

「守衛を抱き込んで第三実験室で鍋パーティしてた事とか」

「・・・見てたのかよ」

「エネルゴンの種類がちょっと偏ってたから、記憶に残ってて」

そういうもんじゃねぇだろう。

げんなりと頬杖をつけば、スカイファイアーは悪戯っぽく笑っていた。

「他にもあるよ。共同プログラムをサボタージュして、裏のスペースで博打の胴元やって謹慎貰った事とか」

「どんだけ知ってんだよ・・・・・・・・待てよ、」

自分の行動ログに間違いが無ければ、今し方スカイファイアーが上げた話はどちらも自分が彼と知り合うずっと前だ。

そもそも所長の挨拶の件だって、毎度似た野次を飛ばしていたが――――少なくとも、研究所に入ってまだ数年だった筈だ。

「お前、一体いつから俺の事見てたんだよ」

新人だった頃からおよそ数百年、研究の一環で一時的にコンビを組む事になるまでには随分な時間が横たわっている。

恐る恐る訊ねてみたものの、目の前の輸送機はただ人好きのする笑みを浮かべているばかりだった。

 

 

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スカファさんは爽やかなストーカーだよ!!

あと何か、どっかズレてると思う。

 

2011.11.28